年末年始に読みたい 内向型が「安全地帯から踏み出せる」1冊ほか

2022年によく読まれた書籍から数冊を紹介する


アンデシュ・ハンセン著「ストレス脳」


ストレス脳』(アンデシュ・ハンセン著、2022年7月、新潮社)は2020年に「スマホ脳」で日本でもスマッシュヒットを飛ばしたスウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセンによる「○○脳」シリーズの一冊である。もちろん、本書から読み始めても何の問題もない。

主に取り上げられているのは軽い不安や憂鬱全般……つまり、誰もが持ち合わせているものだ。「スマホ脳」では、タイトル通りスマホと脳の関係に主眼を置いていた著者だったが、本書では軽い精神疾患全般を俯瞰し、人類史を紐解きながら、なるべく分かりやすい説明を試みている。

当然ながら本書がストレス解消に直接的な効果をもたらしてくれるわけではない。しかし読むに足りる効用はあるようだ。

著者は本書の効用を以下のように記している。

「昨年、スウェーデンで本書が刊行されて以来、毎日のように道で誰かに声をかけられ、感謝されます。ほぼ全員が、脳の中でどのようにうつや不安がつくられるのかだけでなく、なぜつくられるのかを学んだと言ってくれます。つまり自分を見る目が変わり、自分を病気だとか壊れているというふうには思わなくなったそうです」

自分自身のメンタルを過大にも過小にも評価せず、きちんと認識するための案内として適切な書籍であることは間違いないだろう。

オリバー・バークマン著「限りある時間の使い方」


限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン著、2022年6月、かんき出版)は「長い目で見れば、僕たちはみんな死んでいる」というイントロダクションで始まり、「僕たちに希望は必要ない」というエピローグで締めくくられる。目次を眺めると他にも刺激的な章題が目白押しだ。ずいぶんシニカルで悲観的な書籍であるように感じられるかもしれないが、一方で私たちが持っている「時間」の見方に重要な問いを投げかけているのだ。本書は平易なタイトルとは裏腹に、一般的なライフハック系の書籍とは一線を画している。

人生はたったの4000週間しかない。実際にはもっと長いかもしれないが、短いかもしれない(極端にいえば、明日で終わってしまう可能性だってある)。にもかかわらず、私たちは一日一日を、到底達成できそうもない「大きな希望」のための「準備期間」として過ごしてしまっているのではないか。たとえば、現代人は常識のように、休暇を「次の仕事のために英気を養う期間」だと思い込んでいる。しかし本来、休暇は手段ではなく目的であるはずだ。

大きすぎる希望のために日々を消費するのではなく、「今」を生きることこそ、有限の人生をより良くする最適な手段ではないだろうか。

……筆者が理解したところ、以上が本書の、大雑把な主張である。納得するのはともかく、実践は容易ではないだろう。しかし、だからこそ触れる価値があるように思える。自然と持っているかもしれない固定観念を打ち壊してくれるのは、まさに本書のような書籍だからだ。

紹介した四冊のうち、「映画を早送りで観る人たち」と「限りある時間の使い方」の二冊は、アプローチ方法こそ違えども、どちらも効率をテーマにした書籍である。2022年はいつにも増して時間効率を主軸に据えた本が目につく一年だったといえるだろう。

折しも今月、国語事典の編纂で有名な三省堂による「今年の新語 2022」にてタイムパフォーマンス(時間対効果)を意味する「タイパ」が大賞に選出された。本賞は流行語大賞とは異なり「いずれ辞書に載るかもしれない」という基準で選考されている。「タイパ」という概念はこれから更に広く根付いていくのかもしれない。

とはいえ、せめて年末年始ぐらいは効率を無視して自由に過ごしたいところだ。自由であるからこそ、皆が休んでいる時期に差をつける、というのも一手である。時間の使い方は周囲に左右されずに決めるべきだろう。読書も選択肢の一つに過ぎない。

いずれにせよ、来年も読者にとって良き一年であることを願うばかりだ。

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静かな人の戦略書』(ジル・チャン著、2022年6月、ダイヤモンド社刊)

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映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史著、2022年4月、光文社)

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ストレス脳』(アンデシュ・ハンセン著、2022年7月、新潮社)

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限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン著、2022年6月、かんき出版)



松尾優人
◎2012年より金融企業勤務。現在はライターとして、書評などを中心に執筆している。

文=松尾優人 編集=石井節子

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