補聴器の使用が高齢者の認知症発症を抑制する

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難聴が高齢者の認知機能の低下、社会での孤立、低い自尊心、機能障害、認知症の悪化につながることは随分前から知られている。難聴は65歳以上の高齢者に最も多く見られる症状の1つであり、高齢者の半数以上がある程度の難聴を患っているため、神経症状の悪化を最小限に抑えるのに聴力の回復は最も重要だ。

米食品医薬品局(FDA)は、処方箋なしで補聴器を購入できるようにしている。フォーブスでも報じたように、これにより難聴の治療を受けていない多くの米国人が補聴器を容易に手に入れることができるようになる。

しかし、この前提は理想的に思えるが、処方箋なしで購入できる(OTC)補聴器の実用化の問題についてジョシュア・コーエンは「大きな問題に対する、かなり不相応な解決策に見える」と述べている。OTC補聴器の利用は、軽度から中等度の難聴者に限定される。加えて、補聴器を使用する前に耳に関する医学的な問題を解決する必要があることはいうまでもないが、どのタイプの補聴器が最適かを判断する検査やアドバイスがないことは、多くの場合、医師や聴覚士の診察を省くことによるコスト削減や時間の節約よりも重大な問題だ。

補聴器の使用が難聴の高齢者の認知機能の低下を抑制できるかどうかについての研究が医学雑誌『JAMA Neurology』(12月5日付)に掲載された。著者らは認識されていない、あるいは治療を受けていない難聴が認知機能の低下につながることはよく知られているが、補聴器や聴力回復のための手術が認知機能の低下の予防や軽減に役立つかどうかは不明であることを認めている

シンガポール国立大学を拠点とする研究グループは、12万6000人超を対象に以前行われた8つの研究のレビューを行った。その結果、補聴器を使用している人は、使用していない難聴の人に比べて、認知機能の低下や認知症が19%少ないことが明らかになった。また、短期記憶の認知テストを行った研究についてもレビューし、補聴器を使っている難聴の人は、使っていない人に比べて短期記憶がわずかながら(3%)良いことが明らかになった。

高齢者がわずらう慢性疾患として難聴は3番目に多く、難聴の検査、対処、治療が重要だ。難聴に気づかず、放置することと認知機能の低下との間には関連性があることが知られている。難聴に善処することで認知機能が20%近く向上することが明らかになったことは、良好な聴覚維持の啓発を続けるのに十分な根拠となる。

さらには、補聴器を含む聴覚補助器具の使用に対する否定的な見方をなくすことが引き続き求められる。実際、難聴は健康な新生児に最も多く見られる症状の1つであり、300人に1人がある程度の難聴を抱えているといわれている。視覚障害と同様に、難聴は特定して治療することが可能な症状であり、それ自体が神経衰弱や脆弱性の兆候ではないという認識が広まれば、より多くの人々が聞くことができるようになり、また自分の声も聞いてもらえるようになるだろう。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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