アップルの新製品も? 処方箋不要の補聴器、FDAが販売認可

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米食品医薬品局(FDA)は長年にわたる議論を経て、処方箋なしで購入できる補聴器の販売を認めた。早ければ10月半ばにも、軽度から中等度の難聴者は医師の診察などを受けずに補聴器を買えるようになる見通しだ。

今回の措置は、従来の一般的な補聴器購入者にとって、場合によっては数千ドルの節約効果をもたらすだけでなく、大勢の高齢者や難聴者の生活の質を向上させるような新しい技術の開発につながることも期待される。実際、アップルやボーズといった企業は、この規制改革を見越して、現在の補聴器よりも安価で、性能面でも上を行く可能性のあるデバイスの開発を進めている。

米国の消費者が、医師の診察や処方箋の交付を受けずに補聴器を店舗やオンラインで購入できるようになるのは、史上初めてのことだ。米国では人口の10%強にあたるおよそ3700万人が難聴に悩まされており、米国立衛生研究所(NIH)によると補聴器を使うことで恩恵を得られる成人は3000万人近くにのぼるという。

だが、NIHの推定によれば、実際に補聴器を使用したことがある人は70歳以上の高齢者で3分の1程度、若年難聴者ではわずか16%ほどにとどまるのが実情だ。難聴はうつ病や認知機能の低下、社会的な孤立につながるおそれもある。

難聴者の多くは高齢者だが、新ルールは18歳以上の人すべてに適用される。

寡占状態の業界、「偽の草の根運動」で抵抗


難聴者らが補聴器を使わない理由は、自分が難聴だという事実を認めたくない、差別や偏見の対象となるのが怖い、などいろいろあるだろうが、大きいのはやはり値段の高さだ。処方箋を必要とする補聴器は左右セットで4000〜5000ドル(約54万〜67万円)もするものもあり、高齢者向け公的医療保険の「メディケア」や民間保険ではカバーされない。

これに対して、処方箋不要の補聴器の価格は200〜800ドル(約2万7000〜11万円)程度になるとの見方が出ている。

米議会は、FDAに処方箋不要の補聴器を認可する権限を5年前に与えていた。昨年夏、ジョー・バイデン大統領はこの規制改革を最優先課題のひとつに据え、10月にFDAが今回承認されたルール変更を提案した。

上院でFDAに処方箋なし補聴器の認可権限を与える法案を支持した保守派のチャック・グラスリー議員(共和党)とリベラル派のエリザベス・ウォーレン議員(民主党)は、6月に公表した報告書のなかで、米国の補聴器は5社で全体の9割を生産しており、業界は独占に近い状態にあると指摘。これらの企業については、消費者による草の根の運動に見せかけて新ルールへの反対論を展開しているとも批判した。

補聴器ビジネスは、健康や安全性という名のもとに、政府の規制によって競争やイノベーションが制限されてしまうことの教科書的な事例だ。政府は引き続き消費者を偽の製品や危険な製品から守っていく必要があるが、それはイノベーションを妨げずともできることであるはずだ。

編集=江戸伸禎

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