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登場する事件も、刑事事件から著作権事件までと幅広い。そして、内容も凝っている。シーズン5のエピソード11(「大逆転を信じて」)では、ロックハート・ガードナー法律事務所から独立したアリシアはTV局が自分たちの曲を無断で使用して、その曲が大ヒットしているといって著作権侵害を主張するミュージシャン、ロビーとマーシャルを代理する。
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ロビーとマーシャルの曲は、ルベル・ケインによるオリジナルのラップソング「Thicky Trick」の歌詞を使用してロビーとマーシャルが自分たちのメロディーを加えて制作した楽曲だった。つまり、ラップの「派生的著作物(derivative work)」である。

米国の著作権法では、原著作物の著作権者(ケイン)から許諾がないと派生的著作物の著作権を第三者(TV局)にも主張できない。実はこれ、日本の著作権法と取り扱いが違う(日本では原著作物の著作権者から許諾を得ていなくても第三者に対して二次的著作物の著作権を主張できる。なので、日本語字幕では「二次的著作物」と訳されているが、derivative workは「派生的著作物」のほうがよいだろう。)。

アリシアは、ケインから派生的著作物を創作する許諾をもらいにいき、許諾を得られたが、後にTV局が派生的著作物を作成する独占的な許諾をケインから受けたと反論し、逆に懲罰的損害賠償として80万ドルを請求されてしまう。米国では州レベルで懲罰的損害賠償に関して定められることがあり、日本にはない特徴的な制度である。
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次の手として、アリシアは、ロビー版がパロディであり、変容的だからフェア・ユースである、だから原著作権者の許諾がなくてもTV局に著作権侵害を主張できるという構成で議論を展開する。果たしてどうなるか?

英語だと「Satire」と言っているので、日本語字幕では「パロディ」と訳されているが、「風刺」のほうがよいだろう。なぜなら、米国の裁判所では「風刺」と「パロディ」は区別されているからだ。風刺のほうがフェア・ユースに当たるハードルが高い。

この事案のネタは、Luther R. Campbell et al. v. Acuff-Rose Music, Inc. 510 U.S. 569 (1994)である。ラップミュージックグループ「2 Live Crew」が映画「プリティウーマン」の主題歌として有名な「Oh! Pretty Woman」をラップ調にした「Pretty Woman」をリリースしたところ、著作権者が著作権侵害を主張した事件であった。

この事件は、フェア・ユースに関する最高裁判決として有名だ。実際の事案は、メロディは類似のものを使用し、ラップでは歌詞が変更されていた。

また、現代美術が米国社会に非常に根付いていることを感じさせるシーンもある。シーズン7のエピソード14(「新たな展開」)では、蟻が発生してシートで包まれた法壇をみて裁判官が「これはクリストの作品かね」というジョークを言う。


出典:シーズン7のエピソード14

クリスト&ジャンヌ=クロードは、やわらかな布を使った大規模な作品で世界的に有名なアーティストで、ドイツのベルリンに所在する旧ドイツ帝国国会議事堂を布で包んだ「包まれたライヒスターク」(Wrapped Reichstag)など多数の作品がある。
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文=本村剛大

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