経済・社会

2022.12.05 10:30

最新の雇用統計は「米国はまだ景気後退していない」という

安井克至
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Getty Images

一部の人は、米国は現在、不況の真っただ中にあると感じている。株式市場の投資家、不動産業者、住宅ローン仲介業者などだ。だが、全体として経済はまだ不況に陥っていないことを最新の統計は物語っている。

2022年11月の米国における雇用者数は26万3000人増だった。2022年初めのころと比べると増加は鈍っているが、それでもまだ増えている。通常、不況になると雇用は減少するのにだ。

解雇がニュースになっている。Amazon(アマゾン)の幹部は「アレクサ、従業員1万人を解雇して」と言って解雇に着手した。また、Intel(インテル)、H&M、CNNなどの解雇も最近ニュースになった。しかし、経済全体の解雇状況を把握するのに最も適切な指標は、労働省が発表する失業保険の初回請求件数だ。この記事執筆時点の最新の数字は22万8750件で、これは約1億5000万人の労働者がいる経済における数字だ。景気の浮き沈みはあるが、これまでの週平均の失業保険の初回請求件数は35万件超だ。しかも、平均値を算出した期間(1967年〜2022年)より現在の方が労働人口はずっと多い。

さらに多くのデータが、米労働省雇用動態調査(JOLT)報告書で示されている。2022年10月に600万人が新規採用され、離職者はわずか570万人だった。この離職者数には解雇と自主退職の両方が含まれている。求人数は引き続き失業者数を大きく上回っている。

民間の経済学者による全米経済研究所の景気循環委員会では、雇用は1つの要素に過ぎないととらえている。同委員会は雇用と、その他に3つの指標を重視している。雇用に続く2つ目の指標は、移転支出を除いたインフレ調整後の所得だ。この指標はインフレ調整のため今年は横ばいだ。3つ目の指標である工業生産高は今年の初めに上昇し、その後横ばいとなった。そして最後の指標、インフレ調整後の企業売上高は6月まで勢いよく上昇し、その後横ばいになった。これらの重要な指標は経済はそれほど成長していないが、縮小しているわけでもないことを示している。

雇用統計は、明日不況にはならないことを示すものではないが、まだ不況が始まっていないことを裏づけている。米連邦準備制度理事会(FRB)の強力な引き締め策は確かに効果を上げ、景気後退が始まる可能性が最も高い時期は、筆者が先日の記事で書いたように、2023年後半か2024年初めだろう。しかし、実際に悲惨な状態になるまで、惨めな気分にならないようにしよう。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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