「色々と試してみましたが、結局自分たちにできることは目の前にある宿泊施設に向き合い、コロナ禍でも相手が求めていることをヒアリングし、一件一件の契約を取っていくことしかなかったです」
そんな粘り強い営業が功を奏して、業績は徐々に回復を果たす。実は、業界全体として宿泊者数は激減していたものの、宿泊施設の公式サイト売上(tripla経由)はコロナ前後で変わらなかったのだ。2021年夏ごろからはむしろ増えている。契約施設数は、2021年9月にはtripla Book、2022年8月にはtripla Botがそれぞれ1000件を突破した。
10社以上の競合がひしめき合いながらシェアを奪い合う競争の激しい業界で、同社の強みとなっているのは、各サービスの連携だ。今年1月に発表したCRM(顧客関係管理)ツールのtripla Connectでは、自社の予約システムとチャットボットだけでなく、CRMツールとの連携も可能。他社同士の予約システムとCRMツールを連携しようとすると数千万円の開発費用がかかるところを、数万円で提供している。
まだまだ宿泊業界では馴染みのないCRMだが、それだけに導入効果は大きい。コロナ禍でも、公式サイト経由での予約が多い宿泊施設ほど業績は安定していた。今後は各宿泊施設が顧客データを活用してリピーターを増加させることで、経営も安定していくと見込まれる。
「経営者になってから、いきなり全部の取引先から契約を解約されるという夢をよく見ます。当然不安に駆られるわけですが、それは宿泊施設の経営者も変わらないのではないかと。そんな不安を抱えているからこそ、自分たちのサービスを理解してくれ、定期的に泊まりに来てくれるお客さんは非常にありがたい存在のはず。コロナ禍での業績悪化も底打ちで、業界としては上がっていくだけなので、今後は宿泊施設がどんなトラブルに見舞われても安定した利益を出していけるよう、私たちもサポートしていきたいですね」
起業から約7年半を経て、東証グロース市場に念願の上場を果たしたtripla。「絶望の淵から見える景色がある」とよく言うが、資金ショートやピボット、コロナ禍を経たからこそ、同社が吹かせられる宿泊業界の新たな風がありそうだ。