人々に「ツール」を与える
ルース教授によると、Elements of AIには2つの大きな目的があるという。1つは、技術的なことだ。バスの運転手や、医者、アーティスト、教師、ジャーナリストたちと、AIについて、その基本的なコンセプトを共有した上で、会話ができるようになることだ。AIの機会や限界、インパクトを知った上で、彼らの仕事や、人生の中で、どのような新しいイノベーションが可能か議論をすることができる。
それは、経済成長の源や種のようなものだ。フィンランドでは、優れた教育システムがあり、多くの人が高い教育を受けているので、それが可能だという。
「しかし、それよりも大きなゴールは、お年寄りも子どもも、すべての人がAIについて、自らの意見を持つようになることです」と、ルース教授は語る。「大仰なメディアのヘッドラインや、SF映画といったものに惑わされない、ファクトに基づいた意見です。そしてようやく倫理について考えることができるのです」。
例えば、どの程度の監視が許されるのか、といった問題だ。犯罪防止のために、監視カメラが道路にあることは認められるか、また、デジタル指紋が集められるのが認められるのか、などは公共での議論が必要になる。
「多くの人々は、一つ目の経済的な成長につながることを重要視しているし、それを否定するつもりはありませんが、私は二つ目の、多くの人と議論や会話が可能になる、ということに、よりモチベーションを抱いています。人々が合意を形成し、AIに指針を与えること、これがとても重要になると思います」
「Elements of AI」がうたう、「Democratize AI(AIの民主化)」とは一体どういうものなのか。
「私が思うに、“Democratize AI”の意味は、人々に「ツールを与える」ことです。テック企業が、人々にAIサービスを提供したり、それをオープンデータにすることがAIの民主化だとは思わない。民主化とは、人々に決めさせることだと思っています。誰かにコントロールされない。自らがコントロールを持つことです」
このフィンランド全国民向けAI無料講座「Elements of AI」の成功例は、フィンランド政府のユニークな「インクルーシブなAI戦略」にも大きな影響を与えていると言われる。
次回は、フィンランド版マイナンバーの取り組みと、プッシュ型の公共サービスレコメンデーションシステム「Aurora AI」について紹介する。