北欧フィンランド全国民向けAI無料講座が成功した理由

ヘルシンキ中央図書館(Oodi)の1階エントランス近くのスペースでチェスをする人々。


Elements of AIは、“Democratizing AI(AIを民主化する)”という掛け声のもとに、 サービスを展開、開始した年には、フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領も修了し、SNSに修了書をアップするなどして、知名度は上がっていった。

「ニーニスト大統領が修了したことには、大きな意味がありました。一つは、どんなに忙しい人でも(明らかに忙しい仕事ですから)、また年齢やバックグラウンドに関係なく(ニーニスト大統領は、現在74歳、元弁護士)、誰でも修了することができることを表していたからです」(ヴィーヴィ・ピトカネン)

ローンチからたったの3カ月で当初の目標であったフィンランド全国民の1%の受講を達成、現在までにヨーロッパの言語を中心に26カ国語に翻訳され、81万5000人が受講、そのうち42%が女性で、25%が45歳以上だという。

ちなみに、日本語には翻訳されていないが、英語のコースでよいならば、日本に住む日本人でも無料で受講することができる。Googleの最高経営責任者サンダー・ピチャイや、フランス大統領のエマニュエル・マクロンがその内容について推薦するなど、当初の予想を超えて、国際的にも大きな成功プロジェクトとなった。

null
EU加盟国の言語を中心に多言語化を進める「Elements of AI」(左)と、受講するサウリ・ニーニスト大統領とその修了証(右)。

「私たちは誰もが──たいていの人がそうだと思いますが、通常の教育でAIの授業は受けたことはありません。数学や生物の授業はあるが、AIという科目はないんです。SF映画やメディアを通じて伝えられていることが知識の中心で、それは到底、現実のAIからかけ離れたものなのです」

そう話すのは「Elements of AI」の監修をしたヘルシンキ大学の コンピュータサイエンス学科テーム・ルース教授だ。専門は、機械学習の実臨床応用で、フィンランド政府のAIセンターのAI教育プログラムのリーダーも務める。2020年にはAIのグローバルコミュニティ、World Summit AIのトップ50イノベーターにも選ばれた。

ルース教授は、Elements of AIが開発される前、研究者としての活動の中で、AIについての多くの誤解やミスコンセプションに出会い、フラストレーションを抱いていたという。

「コンピュータ学科に進学してきた学生でさえ、誤解が多かった。私は講義を始める前にかなりの時間が使って、誤った認識やイメージを捨てさせて、一度頭を真っ白にさせることが必要だったんです」

ルース教授はそれまでの数々の分野横断的な研究、文化人類学者や医療専門家、歴史学者、神学者といった人たちとのコラボレーションの中で、AI技術におけるコミュニケーションの大切さを実感していたという。

「AIとは一体どういうものなのか、私が彼らへの説明に成功すると、そこから興味深い会話を始めることができます。もちろん、うまくコミュニケーションできるようになるまで、努力と時間がかかりましたが、これらの経験は、異なる専門の人たちとコミュニケーションをとる方法について学ぶことができ、大きな財産となりました」

null
ヘルシンキ大学コンピュータサイエンス学科のテーム・ルース教授
次ページ > 人々に「ツール」を与える

編集=岩坪文子 取材協力=フィンランド大使館、柴山由理子

ForbesBrandVoice

人気記事