ライフスタイル

2022.11.27 18:00

なぜ僕は「主人公が女優で警察官」の小説を書くことになったのか

稲垣 伸寿

正直に告白すると、プロデューサー業なんて面倒くさいものからは、すぐ嫌になって退却するだろうと失礼なことを思っていたけれど、恥ずかしながら逃げ出したのは僕のほうだった。僕のみならず、この勉強会に出席していた者の多くが映画づくりの現場から撤退した。

いまも粘り強く、そして旺盛につくり続けているのは杉野さんくらいではないか。これが驚異的なことであるのは、インディペンデントの映画業界に身を置いた経験のある僕にはすごくよくわかる。


杉野希妃さんがプロデュースして主役も務める作品「愛のまなざしを」(c)「愛のまなざしを」製作委員会

なので、「アクション」でとんでもない設定をしたあとで、ひさしぶりに会って話を聞いてみたいとは思ったものの、このときはちょうど杉野さんがプロデュースし主役も務めていた作品「愛のまなざしを」(万田邦彦監督)で忙しいにちがいない時期だった(業界にいたからそういうことは敏感にわかってしまう)ので、連絡するのを控えた。実はずいぶん昔に教えてもらったことが作中に盛り込まれていたのだが、杉野さんはわかるだろうか。

いろいろな作品をまたいで、定期的に会って話をする人間もいる。こうなると取材先というよりブレーンのような存在だろう。それが本Webの執筆者としても名を連ねている重枝義樹さんだ。

2人とも同じ路線に住んでいるので、忙しい重枝さんの体が空いている頃合いを見計らって、僕から声をかけ、先方の最寄り駅の喫茶店でコーヒーを飲みながら延々と話す。

テーマはそのときどきで変わる。政治、量子力学、音楽、社会問題、哲学、映画、経済、宗教などなどありとあらゆることについてだ。僕のほうがずいぶんと年上だが、重枝さんの知識量は僕なんかとは比較にならないほど豊かだ。

会話はたいてい録音する。なぜ茶飲み話をわざわざ録音するかと言うと、内容があまりにも濃密なので、こちらがオーバーフロウしてしまうのだ。しばらくあとで聞き返すと、自分がずいぶんととんちんかんな受け答えや、早とちりを言っているのがわかる。最初は恥ずかしかったが、自分の馬鹿さ加減を客観視してステップアップできる機会だと考えるようにして、最近は快感にさえなってきた。

他者と話し、他者の知識に触れながら喋っていると、創作のスイッチが入ることが多い。小説家の僕にとって、人と会うことは実利的に必要だ。ただ、人と会って得るのは知識だけではない。ほかにはなにを得ているのか? エネルギーである。

会った人に惹きつけられ、エネルギーをもらったと感じるときには、とても嬉しい気持ちになる。もし僕も相手になにかを与えられていればこんな幸せなことはない。エネルギーに満ちた、ありとあらゆるもののつながりこそが世界なのではないだろうか。

文=榎本憲男

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