「見えないお金」があるはず
北野:あらためて「書店主」の役割を考えたとき、3つぐらいの顔に分解できるという気がします。まず、目利きの力で本を仕入れる「コレクター」のような顔。それから、お金まわりやマーケティングといったことを考える「経営者」の顔。さらに、お店にひもづいた人のつながりみたいなものを育む「コミュニティリーダー」のような顔でしょうか。
森岡:まさにそうですね。同じように、自分の仕事にもいくつかの顔があると思います。
普段の書店員という「本を売る」仕事。結構、これは好きです。それから、自分の店を離れて「本を書く仕事」や「本をキュレーションする仕事」があるのですが、すべて本から派生しているんですね。
北野:以前に出版社の人から「本を売るという仕事が、いま『総合格闘技』のようになってきている」と言われたんです。編集者が本をつくって、ただ流通に乗せて──というだけでは売れないじゃないですか。SNSでの告知から話題づくりまで、本当にありとあらゆることをやらないと売れない時代になった。書店主の仕事もどんどん変わっていくと感じます。
森岡:人々の本への認識が変わったので、それに応じて書店の役割がもう変わっていると思いますよ。
北野:森岡書店には「人とのつながりを生み出す」というサロン的な価値があると思うのですが、それをどのように定義していますか?
僕自身、オンラインのコミュニティを運営しています。そのつながりに価値があると思うものの、いかんせんお金にはならない(苦笑)。そこに価値は絶対あるのに、と信じているので、ぜひ伺いたいです!
森岡:同じことを思っています。お店は、本当にいろんな人が来てくださるサロンのようですけど、お金には還元されていません(笑)。
あるとき思ったんですね。100%、そこには価値おそらく経済的にはみなさん大変だと思うんですがあるはず。でも、リアルなお金になっていないのはなぜか。仮に「見えないお金」というものがあるとしたら、つじつまが合うじゃないですか。
価値があるのに、その価値が可視化されていない。ということは、虚数みたいな「見えないお金」というものがある。それを意識的にためていこうと思ったんですよ。
北野:その「見えないお金」がたまると、具体的にはどう役立つと考えているんですか?
森岡:あるとき何かが起こるんじゃないかな、と思うんです。それが何かはわからないんですけれどね。そのための実験をお店を通じて自らに課しているところです。