紙媒体の未来は明るい
北野:もし、18歳や22歳の若者が目の前にいたとして、どんな人が「書店主」という職業に向くと伝えますか?
森岡:どういう職業かと聞かれたら「本と、本屋を好きな人が自由にやる仕事」としか言えないです。好きなことなら「自分ごと」にできる、それが大切だと思います。好きなことは、自発的に情報を仕入れるでしょう。まだ何がなされていないとか、何が新しいかということが自分でわかると思うんです。
実は、本屋になりたい人は、いまも結構な数がいるんですよ。東京や京阪神の大都市だけでなく、厳しい業態といえど日本中のいろんなところに本屋があり、地域の拠点になっています。そこには、その土地の面白い人たちが集まってきて、コロナ前にはトークイベントなども多くのところで催されていました。
おそらく経済的にはみなさん大変だと思うんですけれど、好きなことを仕事にできた人生というものが歩めるはずだと思います。探検家のように「自分で自分の道を切り開いていく人生」が体感できると思うんですね。
北野:探検にかかる「見えるお金」はどうすればいいのか、若い人にどう伝えますか?
森岡:現実的な話をするなら、数年どこかに就職した後に創業計画書をしたためて、日本政策金融公庫から融資してもらうことを勧めます。
北野:いきなりものすごくリアルな話(笑)。最初の500万円をつくるということですよね。
森岡:企画書は大事ですよ。私の場合もスマイルズの遠山正道社長に「一冊の本を売る書店をやりたいです」と伝えたことで、「じゃあ一緒にやろうか」と始まっていきましたから。
北野:将来のビジョンが1行に用意できていた。
森岡:いざというときに自分のやりたいことをビシッと言えるようにしておく。そうした言語能力は、どの仕事においても大切だと思います。
北野:最後に、森岡さんは「本」の今後がどうなると考えていますか?
森岡:それほど悲観してません。例えば「TOKYO ART BOOK FAIR」などを訪れるとすさまじい人数がいますから、まだまだ本は安泰だとすら思えます。
北野:本当ですか!
森岡:実は、紙媒体の未来は明るいと私は思っているんですよ。直木賞作家の村山由佳さんと対談したときに、紙とデジタル画面とでは脳の認識する部位が違うという話題になりました。記憶の残り具合だとか、そこから出力される思考といったものも違ってくるのだろう、と。紙媒体の優位性はあるような気がするし、実際に違うと思うんです。
北野:なるほど、確かにそれは感じますね。
森岡:あくまでうわさですけれど、都内私学のトップ高では、授業でデジタル媒体をあえて使わないと聞いたこともありまして──本当かどうかわからないですよ?(笑) でも、そのような話が出ること自体、まだまだ本は面白いものだと思えるんですね。