誰もが他者に依存している
──ケアを経済と政治の中心に据えるにはどうすればいいのでしょうか。
ロッテンバーグ:本のなかで詳細を述べているが、我々のビジョンを支えるための鍵となる前提がいくつかある。ひとつは、我々の生存と繁栄は常にいかなる場所においても「他者次第」だと認識することからケアの世界の構築が始まるということだ。ケアのオルタナティブをつくることは、我々の相互依存を自認し、ケアとケアの提供の根幹にかかわる、遍在的な両義性を受け入れることが必要だ。
もうひとつの鍵となる条件は、コミュニティに十分な資源、インフラと時間があること。それらが保証される状態にならないと、ケアという感情や姿勢を伴う性質を、どんなに遠くの存在の他者に対してももつ、ということは難しい。
──ケア・コレクティヴの最終的なゴールについて教えてください。本の出版と新型コロナウイルスのパンデミックを経て、どの程度の進展があったと言えるでしょうか。
ロッテンバーグ:我々の唯一無二の目的とは、我々の未来のディストピア的なビジョンがまん延することに立ち向かうことだ。ケア宣言を書いたのは、協力的でユートピア的な、言い換えると我々がフェミニスト、クィア(性的マイノリティー)、反人種差別、エコ社会主義者と呼ぶような、オルタナティブな未来のビジョンを提供したかったからだ。我々はケアの議論を再燃させ、生活のすべての側面においてケアを中心に据える根本的に新しい政治を養うという差し迫ったニーズを明らかにしたかった。
本の出版後、似たような研究者やアクティビストなど多くの人々と我々のビジョンについて共有してきた。ケア・コレクティヴも読書会のグループとして集まりを続けている。
キャサリン・ロッテンバーグ◎ノッティンガム大学教授。The Care Manifesto共同著者。専門はアメリカ・カナダ研究。アメリカ文学のほか、ネオリベラル・フェミニズムやジェンダー研究などに関する著作がある。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジなどを経て現職。