最初は、当時すでに世界を覆っていたたくさんのケアの危機、例えば至る所で起きている格差の拡大や終わらない戦争、難民危機、そしてすべてに迫りくる環境破壊といったことについての意味を理解しようと考えていた。
ケア宣言を書き始めたのは2019年で、新型コロナウイルスのパンデミックによってこの本がこれほど恐ろしく緊急のものになるとは予測さえしていなかった。事実、パンデミックが始まったのはちょうど宣言を書き終えようとしている最中で、パンデミックによって、私たちの議論はより緊急性の高いものになっただけだった。
──ケアが危機的な状況にあると指摘していますが、なぜそのような状況になったのでしょうか。
ロッテンバーグ:我々が渦中にいるグローバルな危機とは主としてケアの危機だ。植民地主義や帝国主義者、女性差別者や白人至上主義者による暴力、そして数十年にわたって人々よりも利益を追求してきた新自由主義的な政治の強まりといったものによって悪化してきた、歴史の結果だと言える。
新自由主義とは単なる一連の経済政策だけではない。我々のすべての社会的、政治的、そして生活の情緒的な側面さえもエクセルのスプレッドシートのように整理させようとする、道理のかたちであり、一連の概念であると宣言で強調してきた。
ケアは新自由主義のもとで、単におとしめられてきただけでなく、ケアという言葉自体がなくなってしまった。なぜなら、ケアとは姿勢であり、キャパシティであり、育む行為であり、費用便益計算に変換することは単純に不可能なものだからだ。