「株式会社の『パーパス(目的)』は社会の課題解決だ」と熱い口調で説く、ひとりの研究者がいる。英オックスフォード大学サイード経営大学院名誉教授のコリン・メイヤーだ。
「フリードマン・ドクトリン」に挑み、『株式会社規範のコペルニクス的転回:脱株主ファーストの生存戦略』(東洋経済新報社、宮島英昭監訳)を著したメイヤーに話を聞いた。
──「株式会社を使って社会の課題を解決する」という概念を説明してください。
コリン・メイヤー(以下、メイヤー):私の考えでは、人々や地球が直面する問題に対し、商業的に実現可能な解決策を提供することが企業の「目的」だ。要は、事業をどのように運営して利益を上げるか、である。
経済学者のミルトン・フリードマンによれば、企業の社会的責任は、ゲームのルールの範囲内で利益を増やすことだという。企業は利益を上げねばならないという点では、私も同意見だが、2つの点で異論がある。
まず、「利益」の定義だ。フリードマンは、環境や従業員の待遇を犠牲にしたうえでの利益も「正当」だとした。だが、誰かを犠牲にしたり、富の創造でなく富の移転を招いたりする利益を「正当」とすべきではない。すべての人を豊かにするような活動と結びついた利益が「正当」なものである。
次に企業の「目的」だ。フリードマンは、企業の目的を利潤追求だとするが、私は、「社会問題の解決」だと考える。そして、それによって得た利益を株主にもたらすのだ。
──教授は著書のなかで、「なぜ、株式会社は存在するのか」と問いかけています。
メイヤー:そうした「根本的な問い」を投げかけたのは、企業が環境劣化や不平等・格差、社会的排除、不信などの問題を引き起こす可能性を想定すべきではないと考えるからだ。
企業は世界の国々に繁栄や成長をもたらし、貧困を解消する存在であるべきだ。
──株式会社と資本主義、支配の「再位置づけ」は、天文学の常識を一変させた「コペルニクス的転回」と同様の意味をもつ、と書いていますね。
メイヤー:太陽が地球の周りを回っているとした天動説を覆し、地球が太陽の周りを公転しているとしたのがコペルニクス的転回だが、企業も、利益を中心に据えるべきではないという考えに改める必要がある。企業は、問題解決という「目的」を中心に展開され、そこから利益が創出されるべきだ。
株式会社と資本主義、支配の「再位置づけ」という株式会社のコペルニクス的転回は、企業の所有や統治に影響を与える。企業が目的を中心に据えれば、問題を解決できる。
例えば、石油・ガス会社は、エネルギー源の産出で環境を損ねてきた結果、エネルギー問題を解決する「再生エネルギー企業」への転換を図っている。