ビジネス

2022.11.17 09:30

コリン・メイヤーに聞く「なぜ、株式会社は存在するのか」

コリン・メイヤー


新たな会社形態「PBC」とは


──「公正な利益」と「偽の利益」を区別するための指標として、人的資本や社会資本、自然資本を企業の会計制度に組み込み、現行制度を再構築すべきだと説いていますね。
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メイヤー:例えば、石油・ガス会社が、二酸化炭素を排出しながら石油やガスを産出し、もうけても、「真の利益」とは言えない。二酸化炭素排出や、採掘による大地・コミュニティへの影響など、環境への損害を回復するための費用が計上されていないからだ。

──米国の新たな会社形態「パブリック・ベネフィット・コーポレーション」(PBC)とは? 日本政府も創設の検討に入ると報じられています(5月16日付・日経新聞)。

メイヤー:利益を上げるだけでなく、公益も創出する企業のことだ。人々や地球が抱える問題を、利益が出るかたちで解決する。
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PBCは米国の多くの州に存在する。欧州ではイタリアにPBCがあり、フランスには、近似した「Societe a Mission」(ミッション・理念のある会社)という法人形態がある。英国にはないが、企業は会社法の下で「目的」を定め、自社を実質的なPBCとして設定できる。

2000年前の古代ローマに起源をさかのぼる「株式会社」は当初、公的な存在だった。企業は、その長い歴史の大半にわたって、PBCとして機能していた。フリードマンが現れ、企業の唯一の目的は利益を上げることだという考えが定着してから、まだ60年だ。そうした意味で、PBCは新しいものではなく、企業本来のかたちである。

──株式会社の進化と生物の進化の間には「注目すべき類似点」があるそうですね。

メイヤー:企業が進化するプロセスは、人間とそっくりだ。成長し、結婚に相当する合併を行い、子孫に相当する子会社を設け、個人のように破産し、いつか、その命を終える。

だが、もっと大切な類似点は、企業が社内で協働し、ほかの組織と提携して、個人ではできない問題解決に励むことだ。人間も、臓器や遺伝子が一体化して「個人」を形成し、その目的を果たす。

──深刻な社会の課題が増えるなか、株式会社の重要性は高まっているのでしょうか。

メイヤー:その通りだ。企業が日常生活で支配的な存在になるなか、企業に必要なのは、少数の人々ではなく、万人の未来に繁栄をもたらすことだ。問題を生み出して利益を得るのではなく、利益を上げながら問題を解決するという「目的」の達成が求められている。


コリン・メイヤー◎英オックスフォード大学サイード経営大学院名誉教授。1994年より教授。2006〜11年まで同経営大学院の初代学院長を務めた。著書に『株式会社規範のコペルニクス的転回』(東洋経済新報社、宮島英昭監訳)など。

文・インタビュー=肥田美佐子

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