解体して再構築可能な音楽をつくる
この演奏会は、Dentsu Lab TokyoとビジュアルデザインスタジオWOWによる企画。WOWの次世代を担う若きクリエイターたちが制作したオリジナル作品のみを展示する展覧会「Unlearning the Visuals(アンラーニング・ザ・ビジュアルズ)」のイベントとして開催された。
そのため、展覧会のテーマである「Unlearning the Visuals」をベースに演奏会のプランが設計された。WOWの Visual Art Directorである高岸寛によると、「Unlearning」は学び直す、学びほぐすという意味があることから、「音をほぐして再構築すること」をテーマにしたという。
観客も参加することができる演出プランは、江﨑の提案だった。
「江﨑さんとお会いしたときに『演奏したものをデバイスを使って変化させてはどうか』という話になって。それをきっかけに、来場した方にも『学びほぐし』を体感してもらえるような双方向性をつくるというアイデアが広がり、Denstu Lab Tokyo の技術を用いて実現しました」(高岸)
音楽面で協力した江﨑は、この日演奏した楽曲について、「曲としていいものということよりも、イベントで来場者の方にどうすれば良い体験をしてもらえるかを考えた。展覧会のテーマである“Unlearn”を、一度習得したものを忘れて、また次の形態になっていくようなものだと考え、解体して再構築可能な音楽をつくることをコンセプトにしました」と解説。
1階で来場者が泡に触れて楽曲に影響を与える行為を「編曲」的なものととらえ、その編曲された楽曲をもう一度受け止めて、再解釈して新たな演奏につなげる。そのときに解体、再構築をしやすいようにスケールの固定やコード進行をループ化することで、再演奏時の拡張性につなげたそうだ。
次のコンサートでも取り入れる?
今回の演奏会は、Dentsu Lab TokyoやWOWのクリエイターにとっても、自らの可能性にチャレンジする表現の場になった。Denstu Lab Tokyo のCreative Technologist九鬼慧太は次のように振り返る。
「これまでに、触れることで全体の大きな流れに影響するようなシステムはほぼなく、良い前例ができました。他の場所でも『そこでしかできない体験』を生み出していくことができるのではないかと感じています」
高岸は「CGと音楽が結びつきはじめた。この経験をもう少しブラッシュアップしながら、再び生の楽器や演奏と組み合わせた企画にチャレンジしていきたいです」と語る。
江﨑にとっても、初めてのインタラクティブアートは貴重な体験となった。
「サウンドアーティストではなく、僕のようなバンドマン、ポップスのミュージシャンもアートに関わることができるのだと知りました。さっそく次のコンサートで今日のような演出が使えないか考えているところです」(江﨑)