出口なしの日英と新たな同盟

川村雄介の飛耳長目


いまや出口なしの感の日英だが、この両国の紐帯の歴史は長い。今年は日英同盟締結120周年にあたる。20世紀頭、極東で急速に近代化を進める日本は、ロシアの脅威に悩まされていた。大英帝国も米国やドイツの台頭が気になりつつ、アジアとバルカン半島ではロシアの南下政策に脅かされていた。長年の「光栄ある孤立」主義を捨て、日本との同盟を選択した。

これは欧米とアジアが結んだ初めての対等な軍事同盟であり、不平等条約の完全改正を悲願としていた日本にとって大きな朗報でもあった。世情に批判的だった生方敏郎ですら述懐している。

「誰も皆涙をこぼすほど歓んだ。日の丸の旗とユニオンジャックのフラッグとをぶっ交いに、どこの家でも門口に立てて祝った。何だか二十世紀になる匆々夜が明けたような気がした」(『明治大正見聞史』)

日英同盟はその後21年間にわたって維持された。

両国には共通点が多い。地政学的には、島国だが大陸からの不断の影響を受ける。かたや王国であり、こなた皇室を頂く。英国は米国に抜かれ、日本は中国に抜かれた。通貨であるポンドと円はかろうじて国際通貨の末端にとどまっているがその地位は危うい。結果、お互いに先の見えない国力の減退に苦しんでいる。

先月、岸田文雄総理とエリザベス・トラス前首相は、強固な日英関係を基盤とした重要なパートナーとして、さらなる緊密な連携を誓い合った。安全保障と経済連携、エネルギー分野での協力を柱としているが、これらを踏まえた一段深い相互の「学び合い」こそ大切だ。
 
病を癒やし、失われた時から放たれるために、両国の経験と知見が生かせる。焦眉を開き新たな成長を実現する方途として、いまこそ真剣に「新しい日英同盟」を考えたい。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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