サイエンス

2022.11.04 14:30

恐竜の「ミイラ」は私たちが想像する以上に存在する

エドモントサウルスの復元図(Full color Edmontosaurus reconstruction by Natee Puttapipat, CC-BY 4.0[creativecommons.org/licenses/by/4.0/])

恐竜の化石で、皮膚が化石化したものを「ミイラ」と呼ぶことがある。この種の化石は、特殊な環境下でのみ形成されると考えられており、皮膚が化石化するためには、即座に埋められたり乾燥することで、死体が動物にあさられたり腐敗することから守られる必要があるとされている。

テネシー大学ノックスビル校の研究チームによる最新研究が、化石証拠と現代の動物死体の観察を組み合わせることで、そのような「ミイラ」がどうやって作られたかの新しい説明を提示している。

研究チームが観察したのはエドモントサウルスで、ノースダコタ州で化石が発見されたことからDakota(ダコタ)と呼ばれており、四肢と尾の乾燥して縮んだように見える皮膚のかなりの部分が保存されている。チームはこの恐竜の皮膚につけられた噛み跡を特定した。それらは恐竜化石の皮膚に残された肉食動物による未治癒の損傷として初めての事例であり、これはその恐竜化石が清掃動物から守られていなかったにもかかわらず、ミイラになった証拠でもある。

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ダコタの脚部。うろこ状の外皮や蹄のある指などの細部が見られる(Paleoart by Becky Barnes, CC-BY 4.0 [creativecommons.org/licenses/by/4.0/])

現代の清掃動物や分解生物は柔らかい内部組織を狙って、動物死体に噛みついたり引き裂いたりする。その結果、体壁に穴が空き、そこから液体や気体が逃げていく。また、無脊椎動物や微生物がこうした開口部を使って内部組織にたどり着くことで、腐敗が加速される。

しかし、内部の軟組織が除去され、腐敗にともなう液体と気体が流出することで、外皮やその他の皮膚組織は早く乾燥する。このプロセスが、外皮やその他の抵抗力のある軟組織が埋められ化石化するまで、長い間維持されるのに役立つ。

わかっている地質学的証拠に基づいて、著者らはダコタの化石化の経緯を以下のように提唱した。

動物が死んだ後、その体は多くのクロコダイルによってあさられ、死体の腹部は開かれ、そこにハエや甲虫類がコロニーを作り、骨や皮膚から腐敗した肉を取り除いた可能性が高い。そのような不完全な清掃によって内部の皮膚組織が露出され、その後外層が徐々に乾燥していった。骨は空になった躯体が収縮しすぎることを防ぎ、うろこ状の皮膚の細部を保持する。最終的に、現在ミイラ化している残骸は泥の中に、おそらく突然の鉄砲水によって埋められ、循環する水流によって鉱物が堆積し、残存していた軟組織を置き換えた結果、岩石中に鋳造物のように保存された。

イラスト
研究対象の標本に基づいて提唱された、軟組織の保存経路(BECKY BARNES/PLOS ONE)

著者らが「乾燥と収縮」と呼ぶこのプロセスは、現代の動物死体でよく見られる現象であり、恐竜のミイラが普通の状況下で作られた可能性を説明している。著者らは、恐竜ミイラが形成されたルートがほかにもたくさんあると強調する。これらの仕組みを理解することは、古生物学者がこのように稀少で情報満載の化石を収集、解釈する際の指針になるだろう。

論文『Biostratinomic alterations of an Edmontosaurus "mummy" reveal a pathway for soft tissue preservation without invoking "exceptional conditions(エドモントサウルスの「ミイラ」の生層序学的変化から「例外的条件」よらない軟組織保存の道筋が明らかになった)』はPLoS One (2022)に掲載された。資料はPLoSから提供された。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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