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2022.10.31

画家・井田幸昌 渋谷で「絵なんてわかってたまるか」と掲げたワケ

画家・現代美術家の井田幸昌、32歳。


そうして選んだのは古代ギリシアの哲学者ヘラクレイトスの言葉とされる「パンタ・レイ(万物は流転する)」。これまでのキャリアの集大成であるとともに、新しい始まりでもある、という意味を込めた。

「今回、今までの自分をすべて出しきってしまって、いったん自分の中を空っぽにしようと思っています。未公開作品も含めて過去の作品たちが一堂に会すことで、これまでのキャリアを俯瞰して自己認識を深めることができます。それが、新しい道を進んでいこうという動機になると思うんです」


Miko (2020, Oil on canvas)©IDA Studio Inc.

一度世に出た作品は、すでに僕のものじゃない


「パンタレイ」は、2023年に故郷の米子市美術館(7月22日〜8月27日)と京都市京セラ美術館(9月30日〜12月3日)で開催する。

初の国内美術館での展覧会となり、初めて井田作品に触れる人も多いと予想される。そこで「アートがわからない」と嘆く日本人は、どのような心待ちで美術館に足を運べば良いのだろうか。

井田は「正しい楽しみ方」や「美しいものの基準」を探しに来るのは違う、と話す。

「一度世に出た作品は、すでに僕のものじゃないんですよ。表現者のじゃなくて、鑑賞者のものなので、純粋に楽しんで欲しい。その人なりの楽しみ方をしてほしいですね。美しさの基準は人によって違うし、自分で発見するものなので」



デジタルネイティブ世代として、SNSを通して多様な考えに触れる機会が多いからこそ出てきた「絵なんてわかってたまるか」という言葉。

「『わからない』を通り越して作品に悪口を言ってくるような人がいたとしても、そういう人にすら魅力を伝えられるような画家になれるように努力をしたい」と挑戦的な井田は、展覧会を経てどんな「新しい道」を歩むのだろうか。

文=田中友梨 写真=小田光二

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