30U30

2022.10.31 17:00

画家・井田幸昌 渋谷で「絵なんてわかってたまるか」と掲げたワケ

画家・現代美術家の井田幸昌、32歳。


井田自身も実際にSNSなどで「芸術はわからない」「アートには疎いですが」という言葉を見聞きすることがあるという。その「わからない」の割合は、映画や音楽に比べて多い。アートが日常に根付いていないからこそである。
advertisement

でも、「わからなくていい」と井田は言う。

「誰も、絵や芸術のことなんてわかっていないですよ。そのわからない“何か”とか、見たことがない“何か”に対して、好奇心を持って向かい合うという行為を楽しんでいるんです」

日本人のマインドセットを変え、新しいリテラシーを広めることができたら。広告にはそんな思いを込めた。
advertisement



2つ目の「わからない」は画家である井田自身のもの。

彫刻家の父の影響で、物心がつく前から30年以上絵を描き続けてきた井田だが、いまだに芸術や絵画はわからないものだという。わからない中でも考え続け、作品をつくり上げている。

「当たり前ですが、完成した作品を一番はじめに目撃するのは自分自身。その瞬間がやっぱり一番幸せです。これから生み出す作品がどんな意味や価値を持つのか、わからないからこそ描き続けられています」

そんな2つの「わからない」を込めたメッセージを、渋谷のスクランブル交差点に掲げた。

「人が交差し、出会いと別れを繰り返すスクランブル交差点は、僕の作品のテーマである”一期一会”を体現するような場所。ただの広告ではなく、渋谷という街をカンバスとした作品なんです」

今までの自分をすべて出しきる展覧会に


巡回展「パンタ・レイ」のコンセプト設計も、また別の「わからない」から始まった。

今回の展覧会では、国内未発表作を含むこれまでの絵画作品や立体作品に加えて、絵日記のように日々綴る “End of today” シリーズや最新の作品も一同に展示。井田の「生きた軌跡」が形になる。そんな集大成のような展覧会を、なんと表現したら良いかわからなかった。


Cinderella (2017, Oil on canvas)©IDA Studio Inc.

「この十数年ほどは、一期一会をテーマに移りゆく時のなかで存在する様々なもの・こと・ひとの存在、関係性を表現してきました。瞬間瞬間を生きていたので、いざ振り返ってみると、僕の価値観や考え方も変化していて、それが絵にも現れていることに気付いて。そんな“変わり続けるもの”と“変わらないもの”を同時に感じられる展示にしようと考えたのですが、それを表す言葉が見つからず半年も悩みました」
次ページ > 一度世に出た作品は、すでに僕のものじゃない

文=田中友梨 写真=小田光二

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事