よく眠る会社が勝つ 睡眠はもう個人だけの問題ではない

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OECD(経済協力開発機構)加盟の38カ国の中で、日本国民の平均睡眠時間はワースト1位。睡眠障害による経済損失が年間15兆円(GDP比で約3%)にものぼる「不眠大国」として、世界でも認識されるようになってしまいました。

特に就労者の睡眠時間は短く、平日休日問わず日本人は慢性的な睡眠不足に陥っており、当社(SleepTech企業 ニューロスペース)の睡眠負債実態調査でも、7割を超えるビジネスパーソンが睡眠に不安を抱えているという結果が出ています。

睡眠は、前半では脳と身体の休息、後半では心の休息というように、役割が分かれており、ストレスの解消などは後半のREM睡眠中に行われているということが最近の研究でわかってきました。また、それらが阻害されることが、メンタル不調、うつ病、糖尿病、生活習慣病などの大きな原因になることも判明してきています。

特に就労時間が固定されていないシフト勤務は、規則的なスケジュールで働く勤務者に比べて肥満(1.14倍)、心疾患(2.32倍)、前立腺がん(3.0倍)、乳がん(1.79倍)など様々な疾病リスクが有意に高いこともわかってきています。

睡眠は生産性の敵ではない


健康と睡眠の関連性に気づきながらも、バブル経済の末期には「24時間、戦えますか」という栄養ドリンク剤のテレビCMが有名になったように、当時、経済の発展には長時間労働が必須と考えられていました。その認識はなかなか変わらず、眠らないで働くことが美徳とされ、ショートスリーパーが優秀と見られるような風潮もありました。

ところが、2021年には、早稲田大学の大湾秀雄教授が、睡眠改善による経済的な効果が年間12万円と試算される論文を発表。2022年5月には、慶應義塾大学商学部の山本勲教授が、上場企業700社を対象にしたアンケートで睡眠の時間と質を確保している企業ほど利益率が向上しているという論文を発表しています。

寝ている休息時間は物理的に仕事ができないため、これまでは睡眠は生産性と成長の敵とされてきましたが、最新の研究ではなんとまったくその逆の結果が示されているのです。

人によって、最適な睡眠時間も、就寝および起床時間のタイミングも異なります。1人1人にとって最適な睡眠を確保することが、結果的にそれぞれのワークエンゲージメント向上、生産性向上、心の余裕を生み出し、チームワークも向上させます。

そして、それが組織の利益率や社会的信頼向上、さらには時価総額という数字にも表れ、資本主義社会で評価される重要な要素となる時代が来ています。まさに「睡眠資本主義」の幕開けと考えてもいいでしょう。
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文=小林孝徳

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