テクノロジー

2022.10.28 15:00

いまだ謎に包まれる「金星の過去」の解明に挑む欧州宇宙機関のミッション


地球の気候変動を理解するためにも役立つ可能性


金星がいつ、どうやって、暴走温室効果を起こす転換点に達したのかを理解することは重要だと、エンビジョンのプロジェクト科学者、アン・グレート・ストローマは9月にスペインで行われた欧州惑星科学会議で私に話した。

地球が金星のような人を寄せつけない惑星に変わることを予想する人はいないが、金星の暴走温室効果を引き起こしたメカニズムを理解することは、地球の気候変動を最大限緩和する方法を理解する上で役に立つかもしれない。

しかし、それは容易な仕事ではない。

「過去の金星を見て、どうやって今の状態に至ったかを突き止めることは困難です」とオランダのESA ESTECの惑星科学者、コリン・ウィルソンが同じ会議で私に述べた。「すべては、今私たちが見ているものから推定したものです」

地質学的なタイムスケールで見ると、金星表面の大部分は誕生から10億年以内で、何らかの壊滅的火山活動メカニズムによって形成されたと考えられている。

太陽に軌道が近いことから2倍の太陽光を受けているにもかかわらず、現在、金星が吸収している太陽光は地球よりも少ないとウィルソンはいう。それは金星が非常に反射性の高い雲に完全に覆われているからであり、降り注ぐ光の70%を跳ね返していると彼はいう。しかし、雲の下に降りていくと、そこはどんどん熱くなる。分厚い大気とそれが引き起こす温室効果のためだ。

エンビジョンは3種類の分光器を用いて金星表面の鉱物を分析し、表面と大気、両方の気体を追跡する。その結果、金星がかつてたとえば大洋のような大量の液体の水を保持していたかどうかが明らかにされる可能性がある。

金星と地球が形成された45億年前に時間を巻き戻して見れば、そさではどちらの惑星もマグマの海と水蒸気の大気、おそらく100地球気圧の水蒸気を保持していただろう。



しかし、現在私たちが持っているデータでは、かつて金星に温暖で液体の水の大洋のある時代があったのか、それとも液体の水が存在したことは一度もなかったのかを、明確に決定することはできない。しかし、惑星シミュレーションを走らせるなら、金星が人を寄せ付けない惑星であったという結果のほうが、居住可能な惑星という結果よりずっと簡単に導ける。

居住可能な条件が期待できる星がどのくらい遠いのかを正確に理解するためには複雑な計算が必要だとウィルソンはいう。それは、覆っている雲や表面の組成、大気物質の惑星への循環などに依存している。

ストローマとウィルソンにとって金星最大の疑問はなにか?


なぜ金星にはこんな非常に高圧な大気があるのかとストローマは疑問に思う。そしてその大気は本当に火山活動から生まれたものなのか?

NASAの金星探査機、マゼランのレーダーによって、私たちは火山、溶岩の流れ、地溝など、さまざまな興味深い地質特性を検出することができたとウィルソンはいう。

「しかし、実際に手に入れたのは金星の静的なスナップショットです」とウィルソンは述べた。「もしその地質学的活動が今も進行しているかどうか知ることができればすばらしいことです」

静的な風景の金星を、活動的惑星の1つへと変えることは、次期ミッションの最も楽しみな目的だとウィルソンはいう。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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