いまだ謎に包まれる「金星の過去」の解明に挑む欧州宇宙機関のミッション

金星を探査するESAのエンビジョンミッションのイメージ画像(ESA/VR2PLANETS/DAMIA BOUIC)

金星は厄介な惑星だ。地上からのレーダー観測によってこの姉妹惑星の深い二酸化炭素が支配する大気に初めて穴を開けてから数十年、私たちはいまだに金星に湖や大洋があったかどうかを知らない。果たして居住可能だったのか、そうであればどのくらいの長さだったのか。生命を育むことが可能であったのか。そして、この惑星の暴走温室効果はいつ、どんなきっかけで起きたのか。しかし私たちは、その表面温度が摂氏約450度に達し、地表の大気圧が地球の92倍であることは知っている。

これに対して、今私たちは火星についてずっと多くのことを知っている。惑星科学界の一致した意見として、火星には少なくとも大きな湖と川があった、たとえ大洋がなかったとしても。火星が居住可能であった可能性は高く、おそらく何らかの種類の微生物生命すら発生していた、たとえ今後それを見つけることができないとしても。

金星はこれからの数十年も、依然として謎に包まれているだろう。しかし、欧州宇宙機関が推定5億ドル(約750億円)をかけて、2030年代の早ちに打ち上げを計画している金星探査ミッションEnVision(エンビジョン)は、現在わかっている金星表面の歴史に関するパラダイムを根底から覆すはずだ。

ESAが掲げているエンビジョンが取り組む疑問のいくつかを以下に挙げる。

・金星の表面と内部はどのように進化してきたのか?

・現在の金星は地質学的、構造学的にどの程度活性状態にあるのか?

・金星表面で発見された最古の石に過去の水が残っている可能性はあるのか?

・金星の暴走温室効果はいつ、どうして始まったのか?


早ければ2032年に打ち上げロケット、Ariane 62(アリアン62)で発射される予定のエンビジョンの4年にわたる周回科学探査は、低周波数電波で地下を探査するレーダーサウンダー「SRS」を金星に送る初めてのミッションだ。エンビジョンの4年間の科学ミッションの中で、SRSは惑星表面下の特性を深さ1キロメートルまで直接測定する。

NASAが提供するレーダーは、金星表面を撮像し、惑星全体のマップを作るとESAはいう。一方電波科学実験は、惑星の内部構造と重力場、さらには大気を探査する。

太陽系のハビタブルゾーン(居住可能区域)の内縁よりも外れた位置にある金星に、果たして豊富な水、あるいは生命が存在したことはあったのか、研究者らは今も論争を続けているとESAはいう。つまりそれは、金星を居住不可能にした暴走温室効果が起きる前のことだ。

EnVision
金星探査ミッション、エンビジョンは地球に最も近い隣人がなぜこんなに違うのかを探る(NASA / JAXA / ISAS / DARTS / DAMIA BOUIC / VR2PLANETS)

また、かつて金星で炭酸を含む岩石から二酸化炭素を分離させるような大気プロセスが、地球のように起きたかどうかも大きな論争になっている。しかし、この私たちの地球から、彼方にある太陽類似星を周回するものまで、あらゆる地球型惑星を理解する上で金星を理解することは不可欠だ。
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翻訳=高橋信夫

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