「どうせ無理」とつぶやく生徒たちを変えたブラック校則改正プロセス

千葉県立姉崎高等学校の生徒たち


接し方を変えるだけで子どもたちの可能性は広がる


姉崎高校は、2021年度に生徒会を中心に学校全体で取り組み、スカート丈と髪型に関する校則の改定案を決め、試行期間を経て改定に至った。そして今年度はカタリバのサポートを受けず、学内のみで校則の検討を続けている。校則改定のプロセスで得たものは、生徒たちの自信、主体性、そして生徒と先生との信頼関係だった。

「生徒たちも先生も、学校をよりよくしたいという意味では同じ目標を持っています。生徒が本気で学校をよくしたいから行動していることは、プロジェクトを通して学校に伝わっていったと思います。それまで『生徒が自分たちで考えてルールを運用することはできないだろう』と心配していた先生も、プロジェクトに関心を持ち、生徒たちに積極的に話しかけてくれるようになりました」(生徒会顧問・山村さん)

生徒会の顧問として彼らの様子を最も近くで見てきた山村さんは、姉崎高校に着任する直前まで大学院で主権者教育を研究していた。「社会や身の回りの問題を考え、それを解決していけるような主権者を育てたい」という熱い思いを抱いて教員になったが、着任当初の姉崎高校は課題も多い環境だった。

一般的には、勉強もでき、自信もあり、積極的な生徒が多い学校こそ活発に討論もでき主体的に行動できると考えがちだが、この3年半の体験で、そうではないと確信したと山村さんは断言する。

「どんな学校の生徒であってもみんな素晴らしい力を持っています。活動を通して、そのことを改めて実感できました。プロジェクト前、生徒たちは主体性がないと言われることがあったようです。でも、子どもたちは誰もが主体性を持っている。その可能性を奪っていたのは、今までの環境や学校であったと思います。接し方を変えるだけで子どもの可能性は広がっていく。うちの学校でできたのだから、ほかの学校でもできる。学校は変わっていけると思います」


生徒会は安心して意見を言える場所。学校全体も、教員と生徒の距離が近くなった

「合意形成」の重要性に気づく


声を上げ、じっくりと対話をすることで先生が耳を傾けてくれ、学校が変わることを体験的に知って自信を手にした姉崎高校の生徒たち。今年度は、文化祭の準備でも生徒からどんどんアイデアが出る。体育祭では教員が生徒に意見を聞き、プログラムに生徒の意見が取り入れられるようになった。社会科の授業でも「社会人になって職場でおかしいと思うことがあれば行動することが大事」と授業後のアンケートに記入するなど、より自分ごととして考えるようになっている。

学校に充満していた無力感や閉塞感はなくなり、それまで感じられなかった生徒たちのエネルギーが伝わってくるようになった。


今では「生徒会活動が楽しそう」と生徒会役員に立候補する人数が増え、役職を増やし、有志で参加する生徒も

生徒総会での議論の質も上がり、「いろんな立場や価値観があるから、それを擦り合わせて合意形成していかなければならない」という言葉が生徒から飛び出すこともある。当初の「自分たちの意見が正しい」と主張を通そうとしていた姿勢から大きく変わってきていることがわかる。このような姿勢は、社会に出て働く上でも人間関係においても彼らを助けるだろう。大人である私たちでさえも考えさせられる言葉だ。

「生徒たちの変化は、社会科の教員としても本当にうれしいんです。先日も、生徒会のミーティングで『自分たちが当たり前と思うことに疑問を持つことって大事だよね』『声に出せない子たちも思っていることを言えるような場面を作っていきたいね』と話している生徒たちを見て感動しました」(山村さん)
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文=太田美由紀

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