空調機器を購入する消費者にとって、冷媒の種類はあまり関係のないことかもしれません。商品自体の良さが第一です。しかし、環境という社会課題解決の文脈からも良い商品だと言えると、業界からも、政府からも、そして世論や社会からも後押しを受けられ、市場全体が盛り上がっていきます。
インドでも当初、ローカルメーカーが打撃を受けるのではないかという懸念もありましたが、市場が拡大することで、多くの社が売り上げを伸ばしました。
まずはみんなに同じ土俵に乗ってもらわないと市場は大きくなりません。その環境、「レベルプレイングフィールド」を作ることが大切なのです。そこから、大きくなった市場で、どう勝っていくか。それは「事業」の部分になります。結局、どれだけ良い商品を提供できるのか、というのがキーだと言えます。
ルール形成とは、自分たちだけでなくさまざまな人が戦える環境を、いかにコンセンサスをとりながら、かつ我々が勝てるシナリオを持って、作っていくことではないでしょうか。ただし、我々だけが勝つようなことはしない。業界全部でパイを大きくするために、みんなが乗れる土俵を作るレベルプレイングフィールドの精神が大事です。エゴイスティックな行動では、コンセンサスを取ることはできません。
ルール形成にはトップのコミットメントが不可欠です。時間もリソースもかかりますし、成功しないこともあります。短期的な視点では取り組めません。特許開放をめぐっては、社内でも反発がある中で、最後は、トップのツルの一声で決まりました。当時、井上礼之会長が「この冷媒は世界の温暖化抑制に資するものなんだろう?これは私たちだけでなく、世界で使ってもらわないと意味ないだろう? じゃあ、持っているものを公開するのが世界のためじゃないか」と言ったことでその後が決まりました。
人材育成も重要です。課題はまだまだありますが、2015年からグローバル・ダイキン・アドボカシー・チーム(GDAT)というチームを作り、各地域のアドボカシー活動を担うメンバーをつなげることに力を入れています。
CSR・地球環境センターを中心に、各地域が参加して、2カ月に1回個別の地域と、年に2回、全地域で会合を開いていました。現在はコロナで以前のように会合は開けませんが、WEB会議を通じて、置かれた状況がまったく違うなかで、皆が同じ視座で考え、議論し、働きかけられるように、情報共有と交流を図っています。GDATが社内で認知されると、支援してくれる人も増え、活動に弾みがつきました。今後は、新しい規制の動きを注視しながら、守るところは守り、攻めるところは攻めるという積極的な姿勢で挑みます。
やまなか・みき◎ダイキン工業CSR・地球環境センター担当部長。総合研究所などを経て、2007年にダイキン工業入社。CSR・地球環境センターで国際規格ISO14001取得推進に従事。10年から同社の環境製品のグローバルな普及を目的としたアドボカシー活動に携わる。15年より担当課長、19年より現職。経済産業省日本産業標準調査会臨時委員。