空調機器メーカーとして、売上高世界1位を誇るダイキン工業(以下、ダイキン)。特に業務用マルチ空調機器の市場では世界の多くの地域でトップシェアをもつグローバル企業だ。ダイキンは2000年代からルール形成に取り組み、法や制度の枠組みにアプローチしながらシェアを伸ばしてきた。
ルール形成は、同社の中・長期戦略の重点戦略テーマのひとつでもある。どうやってダイキンはルール形成の勝ち筋を見つけたのか。ルール形成を担当するCSR・地球環境センター 担当部長の山中美紀に聞いた。
ダイキンがルール形成に取り組むようになったのは、欧州での苦い思い出がきっかけです。2004年から05年にかけて、EU議会でフロンガスの規制について審議されていた時のことです。ダイキンは空調機器の冷媒として代替フロンを使っていましたが、その使用を全面的に禁じる改正法案が委員会を通過し、2週間後の本会議で採択されてしまうかもしれない、という事態になったのです。
当時の幹部がリーダーシップを取り、EU議員に繰り返し説明に行き、なんとか採択は見送られました。その時、ルール形成をおろそかにしていると大変なことになると経験したのです。
この危機がターニングポイントになり、「ルールは自分たちで変えられる」と気づかされました。ヨーロッパでは昔から当たり前にやっていたことですが、日本ではなんとなくルールは上から決められるもの、という感覚があったと思います。そこから、自分たちも積極的にやるという意識に変わりました。
その後、私はR32という冷媒を世界に普及させるという社内の部門横断プロジェクトを担当しました。R32はその多数の利点からダイキンが早くから注目していた新たな代替冷媒です。
チームがまず始めたのは、社の「ポジション決め」です。世界の冷媒事情に対して、社としてどういうポジションをとるのか、なぜR32がいいのか、なぜ我々はこれを支持するのか。そういった社としてのポジションを決めて、「ポジションペーパー」を策定しました。
さらに、出来上がったペーパーをヨーロッパ、アジアの各国にもって行き、関係する技術の有識者に説明してアドバイスをもらいました。こうやって国内外で発信してR32のよさを説明し、世界に広げるための共感を得ていったのです。