高度な栽培・醸造技術をもった人材を確保しやすい環境にあるのも、イギリスのワイン造りにおける大きなメリットだと言われている。もともとシャンパーニュの一大消費国であるイギリスは、フランスのシャンパーニュメゾンでの豊富な経験を有する栽培家や醸造家とのコネクションがある。また、イギリス連邦かつワイン銘醸地であるオーストラリアやニュージーランドの人材との距離も近い。
そして何よりイギリスは、スパークリングワインを楽しむ長い歴史と文化を誇る。もともとシャンパーニュ(シャンパーニュ産のぶどうを使った発泡性ワイン)が生まれたのはイギリスで、その偶然の産物である発泡性ワインをいち早く気に入ったのもイギリス人と言われている。その後イギリスはシャンパーニュの一大消費国として成長し、英王室もシャンパーニュをこよなく愛し続けてきた。
このような背景から、英国産スパークリングワインが自国に根付きやすいことは想像に難くない。
現にここ十数年の間で、様々な英国の公式イベントにおいてイングリッシュ・スパークリングワインが登場しているし、2018年には『キャメルヴァレー』が英国初のロイヤルワラントに認定されている(チャールズ皇太子による授与)。王室お気に入りのイングリッシュ・スパークリングワインが続々と登場しているのも、世界の注目を集める引き金となっている。
英国産スパークリングワインの聖地を訪ねて
7月上旬に足を運んだワイナリーは、英国産スパークリングワイン生産のパイオニアとして、さらには「エリザベス女王お気に入りのスパークリングワイン」としても知られる『ナイティンバー』だ。
ロンドンの主要ターミナルのヴィクトリア駅から列車で約1時間15分ほどでパルバラ駅へ。そこから車で10分ほどでウェスト・サセックス州に位置するワイナリー に到着した。所有する自社農園は実に広大で、同州以外にもハンプシャー州やケント州にも畑を持ち、合計すると約350ヘクタールにもなるという。よく整備されたブドウ畑には、シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエの3品種が垣根仕立てで栽培されているが、うち50%をシャルドネが占める。
土壌はチョークとグリーンサンド(イギリス南東部に所々に存在する海洋堆積物)で、粘土が殆どないのが特徴。カリウムを豊富に含む土壌は、凛としたミネラリティや酸をワインにもたらすのだそう。さらに、同じ畑の中でもミクロクリマがあるため、区画違いのブドウをアッサンブラージュすることで他にはない複雑性が生まれるという。
2017年に竣工した醸造所は清潔で、シャンパーニュ地方の伝統的なそれとは全く異なる最新設備が整っている。ブドウに負担をかけない完璧なグラヴィティーフローシステムが再現されているのも印象的だ。そうして出来上がった原酒は、瓶内二次発酵と長期にわたる瓶内熟成によって美しい変貌を遂げ、テロワールを映し出した唯一無二のスパークリングワインに仕上がっていく。