英王室も愛する、イングリッシュ・スパークリングワインの魅力とは

ナイティンバー

2022年の夏は、英王室にとって激動の時期となった。プラチナ・ジュビリーに湧いた7月から、悲しみに包まれたエリザベス女王の国葬へ。華やかで厳か、そしてときに奔放さも持ちあわせる英王室の魅力が、世界中の人々を引きつけた。

英王室と消費者との接点として、ロイヤルワラント(王室御用達)の称号が与えられたものがある。紅茶、香水、衣類など幅広いラインアップがあるが、そのなかでも、ワインラヴァーの間で旬なトピックが、英国南部で造られているスパークリングワインだ。年々進化し、密かにブームとなりつつある英国産スパークリングワインの魅力を探るべく、イギリスへと足を運んだ。

イギリスワイン概要


まずはイギリスワインの概要について触れておきたい。イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国から成り立っているが、ワイナリーは温暖なイングランド南部とウェールズの一部に集中している。

元よりイギリスワインの歴史は古く、11世紀にイギリスに移住した聖職者が修道院でワイン造りを行ったのが始まりのようだ。しかしブドウが育ちにくい冷涼すぎる環境ということもあり、イギリスワインが日の目を見る機会は皆無だった。ところが、1980年代から温暖化の影響でブドウの熟度が増していき、高い評価を得るようになったのが、イングランド南部で造るスパークリングワインである。

2020年のデータによると、現在イギリスのワイナリー数は約180軒、ブドウ栽培農家は約800軒におよぶが、その多くがここ数十年で急成長を遂げているという。生産しているワインのタイプは64%がスパークリングワインで、ブドウ品種はピノ・ノワール、シャルドネ、ムニエの栽培が多く、これはシャンパーニュにおける主要3品種と重なっている。


ロイヤルワラントのシャンパーニュのひとつ「ボランジェ」は、ボトルに王室の紋章を掲げている(Getty Images)

イングリッシュ・スパークリングワインの可能性


イギリスのスパークリングワイン産業活況の背景には、様々な事象がある。

もちろん外せないのが、テロワールに恵まれていること。温暖化の恩恵については先に挙げたが、イングランド南東部にはシャンパーニュから連なる白亜(チョーク)土壌の地層があり、シャンパーニュと類似する土壌に恵まれていることでも知られている。観光名所のひとつ、イギリスのケント州にある「ドーバー海峡の白亜の崖」の純白の壁を思い描けば、そのミネラル豊かなチョーク層をイメージしやすいかもしれない。

また、イギリスというと「雨が多い」と思われがちだが、年間降水量は地域によって大きく異なる。ワイン生産が盛んなイングランド南東部の降水量はおおむね700mm以下で、実は日本の平均年間降水量の半分以下。梅雨や台風、夏の集中豪雨の心配もないため、ブドウが天災による被害を受けにくいのである。
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文=瀬川あずさ

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