テクノロジー

2022.10.05 08:00

NFTでスケートボーダーを支援するウクライナ人起業家の挑戦

レフ・フィリモノフ。1986年生まれ。クリミア半島のセバストポリ出身。2011年にキエフのナイトクラブBoom Boom Roomを設立し、2016年にウクライナ版フォーブスの「30アンダー30」を受賞。2017年に渡米し、2018年にホスピタリティ業界向けのテクノロジーに特化した投資会社LA FUNDを設立。2019年にスタンフォード大学の社会人向けプログラムVC Unlocked を修了。2021年2月にFree2Shredを設立。同社を2022年にShredSpotsとしてリブランド。


そんな彼の思いに共鳴したのが、サンフランシスコにある起業家のためのシェアハウスDobry Domで出会ったテック企業の若手幹部たちだ。ユーチューブモバイルの元CTOのホリア・シアダー (Horia Ciurdar)、スナップの元クリエイティブディレクターのトミー・ペトロフ(Tommy Petrov)、同じくスナップの元デザイン主任のエイブ・ビズカラ(Abe Vizcarra)らを含む5人は「16歳の頃の自分のようなスケーターを支援したい」というフィリモノフの思いに共感し、彼が昨年2月に設立した新たなスタートアップFree2Shred(後にShredSpotsに改称)の立ち上げに加わった。
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同世代のチームでアイデアを出し合ううちに、発見したアプリが、世界10万人以上のスケーターが愛用するスケートスポット共有アプリの「ShredSpots」だった。彼らはサンディエゴの企業が作ったこのアプリを昨年12月に買収し、クリエイターのための収益化プラットフォームに進化させる計画を立案。そして瞬く間に、400万ドルのシード資金を調達した。



ShredSpotsのシードラウンドを主導した暗号通貨分野のベンチャーキャピタルPeer Venturesは、まだ1ドルの収益も生み出していない彼らのスタートアップの価値を4000万ドル(約55億円)と評価した。
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「このプロジェクトが一体どのぐらいの規模のビジネスに成長するのかは、まだ分からない。けれど、NFTをスケーターのマネタイズのツールにするのは画期的なことだ。NFTの登場以前は、スケーターが広告スポンサーに頼らず、自分のアートを収益化することは不可能だった。テック業界の大手が見落としていたこの分野のコミュニティは10億ドルの企業を生み出す可能性を秘めている」

オリンピックというシステムへの疑問


ウクライナ出身のフィリモノフの人生は、もちろん戦争と無縁ではない。子供時代を過ごしたクリミア半島の故郷にはもう戻れないし、キエフの大学を卒業後に立ち上げたクラブ「Boom Boom Room」も、2014年のロシアによるクリミア併合後の混乱でウクライナの通貨が暴落し、観光客が激減したことで閉鎖に追い込まれた。

「ウクライナがロシアとの戦争に勝って、独立国であり続けることを望んでいる。ロシアの人々が、政府のプロパガンダの嘘に気づき、戦争を止めさせることを願っている」

そう語る彼は、スケートボーダーが国ごとに別れて戦うオリンピックの仕組みにも疑問を感じている。

「なぜなら、スケートボーダーたちは自分のためにプレイしているのであって、国のために戦っている訳ではないからだ。そいつがどこの国の人間かなんかどうでもいい。五輪で有名になって広告スポンサーがつけば、お金を稼げるけれど、スケートボーダーをアーティストとして扱い、彼らが直接、ファンから支援を受けられるプラットフォームを作りたい。その夢を既存のテック業界の大手とは違うやり方で実現したい」

ここ2年ほどのWeb3スペースの盛り上がりの背景には、グーグルやフェイスブック、アマゾンといった巨大になりすぎたテクノロジー企業への幻滅と反感がある。埃っぽいガレージの片隅で、自由気ままなエンジニアたちが生み出したイノベーションは今や、途方も無い富を生み出すことが目的のターゲティング広告だらけの集金マシンに変貌した。

「僕にとってビジネスというのは、10代の頃にスケートボードでやっていたのと同じ、美しく複雑なトリックを生み出すことだ」と、フィリモノフはかつて30アンダー30の受賞後のインタビューで語っていた。ShredSpotsはスケートボードに限らずグラフィティなど、あらゆる路上のアーティストたちを支援することを目標としている。型にはまった退屈な人生なんかまっぴら御免だと思って生きていたすべての16歳のために。

取材・文=上田裕資

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