テクノロジー

2022.10.05 08:00

NFTでスケートボーダーを支援するウクライナ人起業家の挑戦


パンデミックのLAで始まったプロジェクト


パンデミックが始まった2020年の12月、フィリモノフはロサンゼルスに居た。ロックダウンが発動され、バーや映画館が閉鎖された街の中心部は空っぽになったが、ここぞとばかり路上に繰り出したのが社会のはみ出し者のスケーターたちだった。西海岸カルチャーの発信基地として知られる海沿いの街、ベニスビーチで暮らす彼は、そこにある巨大なスケートパークに集まるスケーターたちを見て、これはビジネスになると考えた。

「スケーターの技に感動した観光客が、その場でチップを送れるシステムを構築し、集まった資金を寄付したい」──そんなフィリモノフからの提案を現地の当局は即座に了承し、生まれたのが「Free2Skate」というモバイルサイトだ。このサイトは、パーク内に設置されたQRコードをスキャンすると、その場でスケーターにチップを送れるもので、世界トップクラスのスケートボーダーやローラーブレーダーたちが集うサイトとして活況を呈するようになる。

ところが、それからしばらくするとFree2Skateのアイデアをそのままパクったサイトをフェイスブックが立ち上げ、インフルエンサーたちを引き抜いた。

「フェイスブックやインスタグラムのような巨大プラットフォームと同じことをやっても勝ち目はない。彼らに出来ないことをやってやろうと思った」

そう話すフィリモノフにとってスケートボードは、単なる金儲けの道具ではない。クリミア半島南東部のセバストポリで育った彼は、幼少期からアメリカのカルチャーに憧れ、16歳のときに交換留学生として1年間、米国の高校に通い、本場のスケーターカルチャーの洗礼を受けた。カリフォルニア州北部の小さな街で、地元の悪ガキたちに混じってスケートボードの腕を磨いた彼は、一時はプロとして活躍したが、残念なことに当時撮影したプロモビデオが今では行方不明になっている。

「スケーターにとって、街のあちこちの階段の手すりのペンキの剥がれた跡や、歩道の縁石に刻まれた傷は大きな意味を持つ。仲間たちが、その場所でどんな素晴らしいトリックを生みだしたんだろうと考える。都市の至るところにある、トリックが生まれた場所をブロックチェーンに記録し、永遠に消えないモニュメントにしたい」
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取材・文=上田裕資

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