日本酒は当然、搾った瞬間が最も新鮮な状態だ。だが、問屋を経て、スーパーなどの店頭に置かれると、温度や紫外線によって劣化は進む。そして口にするころには本来の美味しさとはかけ離れたものとなってしまう。このような「残念な取り扱い」は、けっして珍しくはない。
だが、さくら酒店では「マイナス5℃」を維持し、日本酒をゆるやかに熟成させている。まさに最適な状態のままで、顧客のもとに届けているのだ。
「ワインの世界では、厳格な温度管理は当たり前となっています。私たちは日本酒でも、この世界レベルの温度管理を広めていきたいと考えています」(近藤氏)
小さな酒蔵の支援も
とはいえ、好調な輸出とは対照的に、日本酒全体の消費量は減り続けている。日本酒造組合中央会の調べによると、1973年の170万klをピークに減少傾向が続き、2021年には約40万klまで落ち込んでいる。輸出の増加でも埋め合わせられないほど、国内での消費が激減しているのだ。
長期減少傾向に抗うべく、さくら酒店はコロナ禍のなかにあって、社会性の高い取り組みとその情報発信を続けている。
コロナ禍で売上が激減した小さな酒蔵を支援するため、売れ残った日本酒をマイナス5℃で熟成させ、新酒との飲み比べセットとして売り出した。さらに、ウィスキーにヒントを得て、コロナ禍で苦しむ全国各地の酒蔵の日本酒をブレンドし、クラウドファンディングで販売もした。こうした取り組みを地元紙、全国紙、そして名古屋のニュース番組、さらには海外の通信社も紹介するようになった。
さくら酒店の「社会的な取り組み」は、コロナ関連にとどまらない。ウクライナの惨状が連日報じられるなか、さくら酒店の社内から「小さくても、できることをやろう」との声が上がった。そして生まれた商品が、売上金のうち消費税分を除く全額を寄付する日本酒だ。こちらもコロナ禍での取り組み同様、地元紙や全国紙、名古屋の複数のニュース番組に取り上げられたこともあって、1099本が5日で完売した。
「社会性の高い取り組みや、メディアによるPRの根底には、これを機に日本酒の良さをより多くの人に知ってほしいという想いがあります。今まで日本酒をあまり飲んでこなかった人たちにも、適切な温度管理をされた日本酒本来の味わいを知ってほしい。そして、日本酒の長期低迷傾向に歯止めをかけ、反転させたいですね」(近藤氏)
日本酒をワインのように世界に羽ばたかせたい。日本酒の新たな可能性を切り拓く小さな酒販店の挑戦は、まだ始まったばかりだ。