ビジネス

2022.09.16

一流の企業通訳が語る「伝わる言葉」 聴き手を惹きつけるコツとは

橋本美穂(撮影=林孝典)


それは怒りの感情を伝える時です。私の失敗でもあるのですが、ある交渉の場でのことです。日程の遅れや交渉が成立しないことへのフラストレーションもあり、企業のトップが強い口調で怒りを言葉にしたのです。

私はあろうことか情感たっぷりに通訳してしまった。そうしたら相手方にも火がついてしまい、「よくも言ってくれたもんだな」と喧嘩腰になってしまった……。

そこから学んだ教訓は、喜怒哀楽の「怒」だけはストレートに相手に投げるのではなく、「困っているんだ」というニュアンスに転換した方が早くゴールに近づくということでした。

──そんな経験もお持ちなんですね。話し手と聴き手の間に立って言葉を伝えるという仕事に求められる素質とはどんなものでしょうか?

多様性を受け入れるというマインドですね。

私は幼少期、アメリカに住んでいました。「人種のるつぼ」と称されるカリフォルニアで育ったので、多様性を受け入れるマインドは小さい頃から身についていました。なので、どんなに理解しにくい概念でも、価値観が合わない話でも、話し手の思考をオープンマインドで受けとめ、通訳することができるのだと思います。

自分のなかに価値観のバリアを立ててしまうと、相手の話を正確に聴きとることができない。自分のロジックにそぐわない話を理解できない人、理解できないことを排除してしまう人には向かない仕事なのかなと思います。

そもそも人間が話す言葉は矛盾していたり、言葉足らずだったり、不完全なものです。ビジネス各界で活躍する人たちも、伝えることに長けているとは限りません。特に、国際コミュニケーションの場で、スムーズに言葉が出てこないために本領発揮できない、そんなもどかしさを感じている方を全力でサポートしたいと考えています。

人間には誰しも内に秘めた情熱がある。それを伝えていくことがクライアントの成功につながると信じています。


橋本美穂(はしもと・みほ)◎1975年、米テキサス州ヒューストン生まれ。1歳から6歳までを東京で、11歳までをサンフランシスコで過ごす。慶応義塾大学総合政策学部卒。大手メーカー在職中、通訳者養成学校に3年間通い通訳を学ぶ。06年に同メーカーを退職し、大手飲料メーカーで1年間、社内通訳に従事。07年にフリーランスとなり、現在に至る。得意分野は金融、IT、マーケティング。外国特派員協会の通訳も務める。担当した案件は5000件以上。CNN ENGLISH EXPRESSで「英語にないなら作っちゃえ!」を連載中。

文=露原直人 撮影=林孝典

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情熱の通訳者─リーダーの想いを届ける言葉の作り手たち

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