経済・社会

2022.09.18 17:00

モガディッシュ、アフリカで働く北朝鮮外交官の現実 危険と隣合わせで大もうけ


一方、高氏は「北朝鮮外交官の間では、欧州よりもアフリカ駐在の方が、人気がありました」と語る。「欧州は安全ですが、カネを稼げません。アフリカや中東は、政情は不安ですが、カネを稼げましたから」。金正日総書記はたびたび、北朝鮮の外交官たちに外貨を献納するよう求めた。自分の懐事情も厳しいのに、外貨をどうやって稼ぐのか。北朝鮮外交官たちが手を染めたのが、外交特権を利用した免税品や禁制品の横流しだった。「酒やタバコを、イスラム国家に流すこともやりました。場合によっては麻薬を密売した外交官もいました。ただ、欧州諸国は法制度が整っていて、密売が難しいのです。スウェーデンで麻薬密売が発覚して北朝鮮外交官が追放されてから、さらに監視が厳しくなりました。アフリカや中東は監視の目が緩いから商売ができるんです」

高氏が勤務したコンゴ共和国の場合、当時の大使館員は4人だった。1年か2年に一度、オランダなど欧州から大型コンテナに酒やタバコなどを大量に詰め込んでコンゴに輸入した。通関業務の関係者らに1千ドルくらいの賄賂を贈ると、簡単に通関書類にサインしてくれた。手に入れた商品は、現地の密売業者に売却した。「大体10万ドルくらいの収入になりました。業者と山分けし、我々は取り分の5万ドルを4人で分配しました」。1人あたり1万2500ドルの取り分になった。当時の高氏の月給は40ドルだった。本国からの送金は期待できず、その取り分が30カ月分の給料になったという。「もちろん、生活費だけではなく、忠誠資金として本国にも送金しました。だから、アフリカや中東の北朝鮮外交官たちは、本国から可愛がられました」

高氏によれば、金日成は「アフリカや東南アジア、中南米諸国の支持を得て、在韓米軍を追い出す国連決議を勝ち取る」という指示を出していた。最盛期には、50カ国以上にのぼるアフリカ諸国のなかで、北朝鮮が大使館を置いた国は30カ国程度にのぼったという
 
北朝鮮がアフリカ諸国などと関係を強化する手段として使ったのが、武器の販売だった。高氏は「当時、アフリカには中国製やユーゴスラビア製の武器が流通していましたた。北朝鮮製のAK47カラシニコフ自動小銃は、それよりも安価で人気を集めました」と語る。映画「モガディシュ」では、韓国側が「北朝鮮がソマリアで武器を密売している」という情報を外信記者に流す場面が出てくる。高氏は「北朝鮮は当時、ソマリアの政府側にも反政府側にも武器を流して大もうけしていました」と話す。

米国のシンクタンク、ランド研究所が昨年発表した資料によれば、北朝鮮はアフリカ54カ国のうち、約7割にあたる38カ国で国連制裁などから逃れるための活動を続けている。ただ、相次ぐ制裁による財政難により、アフリカにある北朝鮮の大使館は10カ所程度にまで減った。

今、再び、映画「モガディシュ」のような事態が発生したらどうなるか。高英煥氏は「金正日は度量を見せるのが好きで、当時の北朝鮮外交官を罪に問いませんでした。でも、金正恩ならどうでしょうか。叔父を殺したり、義理の兄を殺したり、自分の地位を守るために汲々としています。今、同じような事件が起きたら、金正恩は北朝鮮の外交官を許さないかもしれません」と語った。

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文=牧野愛博

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