まず始めに取り組むのは、経営者の年表作りだ。月に3〜4回インタビューを行い、これまでどのような人生を送り、その経験から生まれた価値観、考え方など、その人間性を理解していくのだ。そしてその内容をまとめ、自己紹介記事を作成する。
「いきなり企業の説明を始めるよりも、ネット上に人格が形成された上で発言した方が、興味を持って読んでくれる人は増えますし、伝わり方に大きな差が生まれます。
コンテンツを作るうえでは、経営者を組織のトップとしてではなく、一人の人間として理解することが重要です。そうすることで企業と消費者との接点は必ず生まれる。
例えば、『BtoBのソフトウェアを販売している会社の社長です』と自己紹介されても分かりにくいし、読者は自分事にできないので関心が持てません。でも、どの経営者にも親がいて、学校に通ったことがあり、恋愛をした経験もあるでしょう。
子どもの頃は運動ができたとか、モテたとか、受験に失敗したとか。そういう、誰もが経験することを、経営者も同じように経験しています。どんなに複雑なビジネスモデルだったとしても、『人間性』に注目してコンテンツに落とし込むことで、必ず読者との接点は生まれるんです」
社内コミュニケーションのタネに
消費者への発信が「社内のコミュニケーション手段の一つにもなる」と竹村は捉えている。
「経営者が自らの人生を交えて発信したことで、社員との議論が深まったというお声をいただくことがあります。発信して終わりではなく、発信をきっかけに、トップに興味を持った従業員とのコミュニケーションがより活発になっていくのです」
発信し続けることで、「企業の本来の姿が、(社内外に)煽ることなく適切に伝えられると考えています」と竹村は力を込める。
一般的に、コンテンツマーケティングは成果が出るまでに時間を要する手法だと言われている。しかし、中長期的な視点で考えれば、「企業の本来の姿」を適切に伝えることに注力するメリットは多い。
「広告を出稿すれば、短期間で企業の知名度をアップさせることは可能です。しかし、オーガニックで検索した時に『企業名 ブラック』とか『社長が派手に遊んでいる』といった、嘘か本当か分からないような情報が上位にあってはブランディング的にもマイナスです。
経営者の人柄やビジョン、そこに共感している従業員たちの発信があれば、より本来の姿が伝わりますよね」
「顧問編集者」という職業が今以上に一般的になり、すべての企業が、自社の本来の姿を煽ることなく伝えられるようになれば──
竹村は、未来を次のように見据える。
「一方的な広告ではなく、丁寧に発信して消費者に届くようになれば、そこにはコミュニケーションが生まれます。
すると例えば、サービスに関する発信を見た消費者から意見をもらってサービスをブラッシュアップしたり、経営者の発信とそれに反応している従業員たちからのコメントを見て、それに共感した求職者が応募したり、といったことも起こりうる。
自社の姿をそのまま伝えられるようになることで、商品の改善や労働環境の整備など、より本質的なことに集中できるようになるはず。そうしたサイクルが生まれることで、各企業がより高いレベルで企業活動をできるようになり、世の中をもっと良くしていけるのではと考えています」