10年後には2兆ドル市場に成長?
DAOの投資の市場は、どれほどの規模になりうるのだろうか。ボストン コンサルティング グループ(BCG)は、20年末時点の世界の資産運用会社の預かり額の総額が103兆ドルと試算したが、投資DAO「Syndicate(シンジケート)」の共同創業者イアン・リーは、DAOが今後10年で少なくともその2%を占めるようになると予測している。
シティグループの暗号資産部門のトップを務めたリーが創業したシンジケートは、トリビュート・ラボと同様に法的ガイドラインに沿ったDAOの設立を支援する企業で、アンドリーセン・ホロウィッツやコインベース・ベンチャーズなどの大手VCの出資を受けている。さらに、ミュージシャンのスヌープ・ドッグや俳優のアシュトン・カッチャー、レディット共同創業者のアレクシス・オハニアンも同社に出資している。
DAOをとりまくエコシステムも急速に成熟しつつある。カナダのブリティッシュ・コロンビア州の一軒家で、この分野への参入を目指すスタートアップの育成を手がけるのが、「Seed Club(シード・クラブ)」と呼ばれる組織だ。シリコンバレーには、一定の基準をクリアした新興企業を指導し、出資するアクセラレータ「Yコンビネータ」があるが、シード・クラブは“DAO界のYコンビネータ”を目指し、毎回15のDAOを対象に8週間のワークショップを開催している。
シード・クラブを率いるジェス・スロス(39)は、デジタルマーケティングの世界から暗号通貨の領域に参入したが、その過程で大手のウェブ企業が権力を握る業界の構造にいら立ちを募らせるようになった。
「僕らは、大手のネットワークに巨大な価値を提供したにもかかわらず、最小限の発言権しか得られません。僕らはこれからもずっと、封建的な大領主のために小作人として働き続けるのだろうかと思ったのです」(スロス)
彼の発想は、実際に人々に支持されている。昨年、スロスはトリビュート・ラボのDAOの1つを含む数十人のエンジェル投資家から200万ドルを調達し、米VCユニオン・スクエア・ベンチャーズのパートナーのニック・グロスマンも出資者として名を連ねている。
さらに言うと、「クリエイターやアイデアを思いついた人間が、正当な取り分を得られるようにする」という、DAOの理念は、これまで暗号通貨に親しんでこなかった人々をも魅了している。最近になってDAOについて学び始めたという50代の投資家のフランク・ロットマンは、DAOが「新たな価値観や時代の精神に訴えるものだ」と述べている。