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2022.09.07

みんなで運営し出資する「DAO」は豊かさを分散する特効薬か

投資DAO「トリビュート・ラボ」の アーロン・ライトCEO(最高経営責任者・左)と、プリヤンカ・デサイ COO(最高執行責任者・右)


規制の壁をクリアする


ブロックチェーンを基盤とする投資集団を、金融当局の規制に合致する正当な組織に引き上げる役割を果たしたのが、トリビュート・ラボの共同創業者で、法学教授でもある前出のライトだ。05年に法科大学院のベンジャミン・N・カルドーゾ・スクール・オブ・ローを卒業した彼は14年、テック系スタートアップのための法律相談所を設立し、暗号資産やブロックチェーン分野の起業家に、法の知識を伝授した。

15年に、最初のクラウドセール(新規の暗号通貨の公開)を実施したイーサリアムの共同創業者たちに法的アドバイスを与えたのも彼で、その後は前出のザ・ダオにも知恵を貸したが、自身は投資しなかった。その理由について、「何を買うことになるのか、どのような構造になるのか100%明確ではなかったからだ」と振り返るが、その懸念を裏付けるかのように、SECは事後になってザ・ダオが発行したトークンが、登録されるべき有価証券だったと結論付けていた。

17年になると、ライトは当局の規制に沿ったかたちでDAOを再開しようと考え、後にトリビュート・ラボとなる会社を共同創業し、法的な契約をブロックチェーンに埋め込む方法をスタートアップに教えた。

つまりライトは当初、暗号通貨分野で発生したゴールドラッシュを後方支援する立場にいたわけだが、自らも“金鉱”探しに乗り出さずにはいられなくなり、いまではフラミンゴを支える中心人物の一人となっている。

トリビュート・ラボが支援するDAOは、イーサリアムのブロックチェーン上で運営されているが、SECの規則に合致するよう、ビジネスに優しいデラウェア州のLLC(有限責任会社)として登記されている。また、投資に参加できるのは所得が20万ドルを超えているか、100万ドルを超える投資が可能な資産を有する個人やファンドに限定されている。加えて、どの投資家も9%以上のもち分を保有できないというルールがあり、ライトも支援先のDAOのもち分を1%に制限している。

12人の弁護士とエンジニア、金融の専門家らで構成されるトリビュート・ラボの運営チームは、全員がリモートで働き、すべての投資家の本人確認(KYC)を行い、米内国歳入庁(IRS)に提出する税務報告書を発行している。フラミンゴに参加する投資家は、米国やオーストラリアに加え、この分野の租税回避地として有名なプエルトリコからも集まっている。ライトは、一人も代表者を指定せずに会社を設立できる米国の会社法が、欧州よりもDAOに親切だと説明した。

トリビュート・ラボの支援を受けるDAOは、さまざまな領域にまたがっている。昨年10月、メタバースを投資対象とする「ネオンDAO」は、わずか45分で2000万ドルを調達し、すでに未開発のバーチャル空間の土地を購入している。その2カ月後には、音楽系のNFTに特化した「ノイズDAO」が30分で700万ドルを調達した。

一方でデジタルファッションに注力する「レッドDAO」は9月に1200万ドルを調達し、物理的なアパレルとメタバース内のアバターの両方のNFTを投資対象としている。レッドDAOのメンバーは、ファッションブランドにNFT戦略のアドバイスをしているが、これは珍しいことではない。DAOの参加者は、単なる投資家にとどまらず、業界のプレイヤーとして、クリエイターを育成する場合もある。例えば、フラミンゴは無名のアーティストたちにNFT制作を依頼しているが、彼らはフラミンゴに有望視されたことがきっかけで、その後、デジタルアートの世界で名声を得ている。
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文=ジェフ・カウフリン & イザベル・コントレラス 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=木村理恵 編集=上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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