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2022.09.06

上場後に「評価されない」のはなぜ? VCと機関投資家、視点の違い

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今、企業価値を高めていくうえで「非財務情報」の開示が欠かせない要因となっている。人材や気候変動への対応など、数字に現われない情報を投資家に示していくうえでカギとなるのは、そこにストーリーや情感を交えていくことだ。

そこで今回から、市川祐子(いちかわゆうこ)が「ナラティブ(物語)IR」と題し、特にグロース市場の企業が、上場後も株価を着実に上げていくための、投資家とのコミュニケーション術を解説していく。

初回は、未上場のスタートアップに出資を行うVC(ベンチャーキャピタル)と、上場株に出資する機関投資家の、視点や考え方の違いを説明していく。

「価格決定」の違い


IPO市場は一時の減速から復活しつつあり、東証の鐘を鳴らす企業は続いている。今どきは、IPO前からVCと関係を築き、経験値を持っている企業も少なくないが、上場後その多くがIR活動で投資家との関係に戸惑い、悩んでいる。

代弁するとこうだ。

「VCは自分たちを理解し、中長期で応援してくれていたのに、機関投資家からは、評価されず正しく理解されてもいない」

こう感じるのには、認識不足がある。機関投資家の共通言語を理解することで、伝えるべきナラティブも見えてくる。

ではまず、投資家の仕事とは何か。私の理解では、VCも機関投資家も基本は同じ。

1. 「未来」をベースに本源的な「価値」を算定し
2. 「価値」より「価格」の安いときに株を買い
3. 買ったときよりも高い「価格」で株を売る

ことだ。

しかし、上場前と上場後では、売買の「タイミング」や「価格の決まり方」に大きな違いがある。まずはタイミングにフォーカスしてみよう。

未上場株を売り買いできるタイミングは限られているが、上場株はいつでも売買できる。上場前であれば、資金調達ラウンドごとに投資家に呼びかけ、ビジョンやトップの将来性、熱量への共感から出資を受けることも可能だ。しかし上場すれば、これに加え、なぜ今この株を買う必要があるか、明確に「Why now?」への答えが必要だ。

漠然と「将来伸びる」という説明だけでは足りず、何がTipping point(成長の転換点)で、それはいつどのように訪れるのかを伝える。まさにナラティブを持たせながらそのシナリオを語り、コミュニケーションを図っていくことが重要だ。

株価がなかなか上がらない場合は、単に「今ではない」と思われてしまっているのかもしれない。

では価格の決まり方の違いは何か。

VCとは基本的に相対取引だ。VCは、企業側の言い値(価格)と自分たちの「目利き」による評価(価値)を比べ、投資をする。業績や市場環境にアップダウンがあっても、次のラウンドまで「価格」は変わらない。

それが上場すると、株式市場では常時取引が行われ、「買われる株数」と「売られる株数」が一致する値段が株価となる。ある瞬間の株数ベースの需給の結果ということだ。

となると、短期でも売ったり買ったりする人が多ければ多いほど、適正な価格になりやすい。フリマでいえば、出品数が多い商品の方が適正な相場が形成されるのと同じだ。
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文=市川祐子 編集=露原直人

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