ビジネス

2022.08.31 17:00

ロシア発のゲーム会社が直面した戦時中のビジネスの本当の難しさ


プレイリックスはパンデミックで活況を呈した。ステイホームを余儀なくされたプレイヤーを呼び込むマーケティングが功を奏し、売り上げは一気に53%増を記録した。現在は売り上げベースで中国の「テンセント(騰訊)」、「ネットイース(網易)」、そして米国の「アクティビジョン・ブリザード」に次ぐ世界第4位のモバイルゲーム企業だ。2人合わせて同社の株の96%を保有するブフマン兄弟の純資産は、20年以降2倍以上に増えた。


Playrix◎2004年、ブフマン兄弟が設立したゲーム会社。フィッシュダム、タウンシップ、ガーデンスケイプなどで知られる。PCゲーム中心からソーシャルメディア向けのゲームに転換、さらにモバイル向けの無料ゲームアプリへと軸足を移していった。ロシアで創業後、いくつかのゲーム開発業者の買収を経て、本社をアイルランドのダブリンに移した。欧州トップ、世界第4位のモバイルゲーム企業。

故郷を遠く離れたダブリンで何年も急成長を遂げてきた彼らだが、今回の危機への準備はできていなかった。ブフマン兄弟が示す公的スタンスは、戦争開始以降大きく変化してきた。2月24日の侵攻後に最初に従業員に呼びかけた際、ドミトリは、プレイリックスは「政治にはかかわらない」と宣言した。

だが4日後に従業員への一時金支払いを発表した際には、兄弟はフェイスブックの公開投稿で、この戦争は「わが社を含め、誰にとっても大きな悲劇だ」と明言した。戦争の終結を訴え「暴力は問題の解決にはなりえません」と書き込み、2人はほかの数人のロシア人ビリオネア同様、真っ先に侵攻への反対意見を表明したかたちとなった。

だが、プレイリックスの一部の従業員はそれでは満足せず、会社を非難した。あるウクライナ人従業員は匿名を条件に、憤りを込めてこう言う。

「プレイリックスは5日間にわたり、今回の事態を戦争だと言うことさえしなかったのです」

Slackチャンネルを閉鎖したのは、そもそも社内のいさかいを収めるのが目的だったが、かえってスタッフのフラストレーションをあおる結果となった。多くのウクライナ人従業員にとって、Slackはロシアとアイルランドにいる同僚との唯一の連絡手段だったからだ。

ロシア軍による砲撃が続くなか、地元のハリコフにとどまったプレイリックスのあるプロデューサーは、会社がウクライナ人従業員からの投稿を削除したのを見て怒りに震えたと話す。結局、彼はプレイリックスに抗議して辞職した。

会社に従うとの意思を表明したある従業員も、戦争が終わり次第辞めることに決めたと言う。

「会社は『国外に避難するなら手伝うが、国内にとどまって自由のために戦うと言うのなら、何の助けも期待するな』と言っているわけです」

創業者兄弟は3月4日、より断固たる公的スタンスをとるべきだという意見を受け入れ「ウクライナを支援すると表明する」と従業員に伝えた。

「ただし、わが社はロシア国内に16の拠点と1500人の従業員を抱えています。我々には従業員とその家族に対する責任があるので、現時点ではあからさまな態度をとることはできません」
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文=イアン・マーティン & ジェーミナ・マケボイ 写真=レボン・ビス 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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