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2022.09.05

「俯瞰」すれば心穏やかに。話題の「メタ論理トレーニング」って何?

『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』(ジュリア・ガレフ著、児島修訳、東洋経済新報社、2022年8月刊)


人間はすぐに希望的観測に逃げ込み、自分の偏見や信条を肯定するような証拠だけを見つけようとする─いわゆる「自己欺瞞」である。

こうした人間の心理的傾向は、基本的にそのとおり。たしかに、私たちはミスをしたときに都合よく言い訳をしようとする。

しかし一方で、ミスを認めるときがあるのも事実である。肝心なときに自分の誤った考えを正そうとしないことは多いが、まったく変えないわけでもない。

人間は複雑な生き物だ。真実から目を背けることも多いが、正面から向き合うこともある。

この両面のうち、あまり知られていない面、つまり自分の内面に向き合って行動し、それがうまくいくときに何が起きているか、そしてその成功から何を学べるか─それが、本書のテーマだ。

「健康には運動が大切」と頭で理解しているだけでは健康になれないのと同じで、「自分の頭のなかの仮説はよく検証しなければ」と言うだけでは判断力は向上しない。自分のなかにある認知バイアスや誤謬(誤り)を認めなくては、なんの意味もないのである。

著者の私も、自分自身の失敗や苦い経験を通じて「人の判断力を低下させているものは、知識ではなくむしろ態度である」という大きな教訓を学んできた。これは本書でも紹介していくように、科学的研究によって裏づけられている。

マッピング思考の「3つのポイント」


これから本書全体を通して詳しく見ていくように、マッピング思考を身につけるためのポイントは、大きく次の3つがある。

ポイント1:「自己都合」で世界を見てはいけない


「目的の妨げになる」という理由で、現実を正確にとらえようとしない人は多い。「結局は、幸せや、成功や、影響力を手に入れるのが目的だ。自分がよいと思うのだからそれが何の問題になるのか」という理屈である。

私が本書を書いた大きな理由は、この問題の答えをはっきりとさせることだ。「自己欺瞞=自分をだましてでもポジティブに考えること」については、誤った考えが広まっている。なかには、権威ある科学者が広めているものさえある。

たとえば、自分の心をだますことは、心の健康を保つために人間に生得的に備わっているしくみだという。それどころか、現実をありのまま俯瞰的に見ることは、むしろ抑うつにつながるという「研究結果」を主張する記事や本もある。

これらの主張や研究結果は真実なのだろうか。心理学がポジティブ思考の効果をどのように思い違いしているかを、本書では考察していく。

また、「起業などの難しいことに挑戦するときには、盲信的な自信が必要だ」という考えも広く信じられている。

だが意外にも、「自分の会社は失敗するのではないか」と予想していた起業家は少なくない。ジェフ・べゾスはアマゾンが成功する確率を約3割と見積もっていたし、イーロン・マスクは「テスラ」と「スぺースX」が成功する確率をわずか1割と見ていた。
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