ジュリア・ガレフ著の『The Scout Mindset』だ。
著者が、10年にわたって人気ポッドキャスト「Rationally Speaking(合理的な話し方)」を通じて行った識者へのインタビューをまとめたこの本には、「地図をつくるように『俯瞰的(メタ)に』考えられる人はほんのわずかである」を前提に、「メタに考える」具体的な方法が書かれている。
以下、その世界的ベストセラーの待望の日本語版『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』(ジュリア・ガレフ著、児島修訳、東洋経済新報社、2022年8月刊)の「はじめに」の全文を転載で紹介する。
バイアスのワナから抜け出し、判断の精度・確度を上げる「マッピング思考」
「判断力が優れている人」とは、どういう人のことを指すのだろう?
ぱっと思い浮かぶのは「知的である」「頭の回転がいい」「勇気がある」「忍耐力がある」などではないだろうか。
もちろん、これらはどれも価値がある。だが、なかでも特に重要だが、あまりにも見過ごされているために、正式な名前すらつけられていない資質がある。
それが本書のテーマである「マッピング(mapping)思考」─すなわち「物事を“こうあってほしい”という視点ではなく、まるで地図(map)を描くように“俯瞰的に”とらえようとする考え方」である。
あとで詳しく説明していくが、たとえば、それは次のような思考のことだ。
自分の間違いに気づき、死角を探し、仮定を検証し、軌道修正ができる。
また、「あの議論では私が間違っていなかっただろうか?」「このリスクを取ることに価値はあるのか?」「ある行動を、自分と同じ政治志向を持つ人がした場合と、違う政治志向を持つ人がした場合では、私の反応はどう変わるだろうか?」といったことについて目をつぶらず、率直に自問できる。
物理学者の故リチャード・ファインマンはこんな名言を残している─「自分に嘘をつかないことは、なによりも重要だ。だが、自分ほどだましやすい人間はいない」。
判断力を低下させているものは「知識」ではなく「態度」
2000年代から今にいたるまで、メディアでは、人間の「自分をだます能力」が大きな話題になってきた。
ベストセラーとなった『予想どおりに不合理』『ファスト&スロー─あなたの意思はどのように決まるか?』(ともに早川書房)などの書籍によって、人間の脳がいかに「自分をあざむく」ようにできているかが白日の下にさらされた。つまり、人は自分の欠点やミスを認めるのがおそろしく下手だということだ。