ベゾスやマスクはなぜそのように考えたのだろうか。どうやらカギは、成功の確率を冷静な目で見ることにあるようだ。
こう言うと「たしかに科学者や裁判官にとって客観性は大切かもしれないが、世界を変えようとする人にとって、重要なのは客観性ではなく情熱だ」という反論を受けるだろう。
しかし「マッピング思考」の客観性は、情熱と対立するものではない。むしろ、情熱を支える考え方なのである。
ポイント2:物事をクリアに見る具体的な手法を実践する
とはいえもちろん、理屈よりも具体的な方法が重要だ。
たとえば、自分の考えがロジカルかどうかを見極めるにはどうすればよいだろう?「私は何を信じ、何を望んでいるのか」を知るために、さまざまな「思考実験」使って具体的に自分の考えを検証する方法を紹介していく。
また、ある考えを自分がどれだけ信じているかは、どう判断すればよいのか? それは本当に、自分の頭で考えて出てきたことなのだろうか? 結論を出すのがあまりに早すぎないだろうか?
こういった課題は自分の確信度を0〜100%の数値で測る方法で解決できる。
本書で「本当は信じていないことを、表面的に主張しているときの感覚」に気づきやすくし、俯瞰的な思考のトレーニングを行なっていこう。
また、自分とは対立する意見を聞くと、イライラしたり怒りを感じたりする─それはもしかしたら「聞き方」のアプローチが間違っているからかもしれない。
本書では正しく思考に反証することで、学びを深めるアプローチもあつかっていく。
ポイント3:前向きな「心の安定」を手に入れる
「現実をありのままに見ようだなんて、この世界には不安や失望があふれているじゃないか。暗い気持ちになって行動できなくなったらどうするのか」という人も多いだろう。
だが本書で紹介する実例を見れば、現実を冷静に直視していながら、けっしてネガティブにおちいらない方法があることに気づくだろう。穏やかで、明るく、遊び心があり、品格のある毅然とした生き方だ。
簡単には見えないが、こういったマインドセットを身につけることには精神的なメリットがたくさんある。
いつのまにかクセになっている「深く考えないでいこう」という誘惑に負けることなく、たとえ困難があっても現実に向き合う力がつけば、大きな自信になる。
リスクを理解し、現実的な勝ち方を見つけることで、心が穏やかになる。
また「こうあるべき」という考えにとらわれることなく、アイデアが自由にわいてくる。そのプロセスはさわやかだ。
本書の趣旨は、人間がいかに不合理であるかを声高に主張することではない。
また、読者に「正しい考え」を持つよう説教することでもない。
むしろ読者に「これまでとは違う視点で物事を考えてみてはいかがでしょう」とお誘いしていきたい。
実は極めて過小評価されているこの思考のスキルを、本書でみなさんと一緒に分かち合っていこうと思う。
『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』(ジュリア・ガレフ著、児島修訳、東洋経済新報社、2022年8月刊)