愛する身内だとしても、このような態度を取る人を介護することは、家族に多大な負担を強いる。年老いて行く親の、周囲の人たちに対する行動が、発症前とはすっかり変わってしまうからだ。このような行動を抑えるために、医師は、抗精神病薬や鎮静剤、抗不安薬を用いることが多い。
これらの薬は、顕著な副作用がある上に、処方された高齢者が服用している他の薬と相互作用を起こす可能性もある。こうした薬に頼る以外の選択肢はないのだろうか?
米国では、これまでの連邦政府の法規制により、医療用大麻の研究は何十年も前から、使用に関する有益性を網羅的に評価できない状態が続いている。そのため、現時点では認知症の高齢者に大麻を投与した場合の効用については、不完全な研究データしか得られていない状況だ。
大麻が認知症に奇跡的な効用をもたらす、と期待されているわけではない。だが、興奮状態にある高齢者には、大麻による鎮静作用が大いに効果を発揮する可能性がある。
高齢者の多くは、慢性痛に悩まされている。特に人生の終盤にさしかかった高齢者の痛みの抑制に関しては、大麻には良好なエビデンスがある。だが、認知症高齢者の、興奮や攻撃的な行動に関してはどうだろうか? これについてはまだ十分な量の研究がなく、決定的な結論を導き出すことはできない状況だ。
現時点で存在するのは、個別事例のエビデンスのみだ。つまり、実際に大麻を試した人、小規模な調査研究を行った人、あるいは自身の限られた経験から導き出した結論を検証した人からの報告しかないということだ。
筆者たちは、身内に高齢者を抱える家族からの相談を受け付け、アドバイスを行うサイト「AgingParents.com」を運営しているが、認知症に関連した、対処が難しい高齢者の行動についての話をよく耳にする。こうした家族の中には、経口投与するタイプの大麻(燃やして煙を吸う製品は使われない)を使用して検証している人たちもいる。高齢者が介護者に暴力をふるったり、怒りを爆発させたり、介護のために提供されるサービスをことごとく拒否するといった行動を抑制できないか、試しているのだ。