経済・社会

2022.08.22 16:30

フィンランドに学ぶ サーキュラーエコノミー最前線


こういった社会システムがあるなか、森林資源の価値をさらに高めるため、産官学共同で機械化とデジタル化に注力してきた。

機械化については、1980年代から森林作業の機械化が普及。ハーベスタやフォワーダーなどの機械が広く導入され、森林作業の100%は機械化を実現。

一方のデジタル化は、同国ヨエンスー市のビジネス推進機関であるビジネスヨエンスーのティモ・ターバナイネンさんによると、4つの段階を経て進められてきたという。

1.森林のデジタル化
2.データ収集の改革:データを収集するだけでなく、データを加工、最適化して木材を取引する。正確なデータが木材の低価格化につながる
3.オープンデータ化:森林などのデータに自由にアクセス可能に。森林への投資拡大につながる
4.デジタルフォレスト:森のデジタルツイン構築へ。2010年代には国家オープンデータ政策により加速化。所有権や樹種、森林伐採時期などのデータが一元化されており、誰でもそのデータを閲覧できる

ハカラさんは、「昔は樹木の本数を数える仕事があったくらいデータ整備に力を入れてきました。現在は3Dマッピングで森林を計測するのですが、たとえばある木材繊維がどの木から作られたのかということまで追跡できるようになっています」と話す。

昨今、製品にトレーサビリティを含むサステナビリティ関連情報を製品に付与する動きが相次ぎ、EUではデジタル製品パスポートの構想が具体化している。繊維のトレーサビリティへの対応も求められることが予想されるなか、同国の森林データ基盤は一つの強みになるだろう。

ハカラさんは、機械化やデジタル化を進め森林資源を有効活用する同国の背景についてこう続ける。「1990年代、フィンランド社会は国内外のデジタル化により紙需要が減少することを見込んでいたため、産官学一体となって木材の高付加価値化に向けた研究を進めてきました。5年ほど前からは、PoC(実証実験)の動きが相次いでいるという状況です。現在では、木材由来の多様なバイオマテリアル利用が重要な役割を果たしています」

サーキュラーエコノミーロードマップにおける「森林資源を基礎とした循環」でも、「木材量を増やすよりも高付加価値化の方が重要」と明記されている。その一つの方向性が、モノとして価値を抽出するバイオマテリアルということになる。

たとえば、フィンランドの世界最大級パルプメーカーであるメッツァファイバー社(Metsä Fibre)は、木材から出るサイドストリーム(屑や樹皮)などの効率化を進め、サイドストリームからさまざまなバイオマテリアルを作る。さらに、材料にできないサイドストリームはエネルギーへ利用される。結果、グループ全体で151%のエネルギー自給率を実現

つまり、工場で化石燃料を使わずにバイオマテリアルを作れるだけではなく、地域にエネルギーを供給していることになる。こういったサーキュラー思考はフィンランドのバイオエコノミー関連企業に根付いているというのが、ハカラさんの見方だ。
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文=那須清和

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