衝突地点のすぐそばに設置されたピクセル検出器、粒子が発するエネルギーと運動量を測定する熱量計、電荷と質量に応じて粒子に弧を描かせる磁場などの高性能の装置があれば、衝突の過程で生じたものが何であれ、再構成することができる。アインシュタインの公式、E=mc2をもとに考えれば、不安定で珍しい新粒子はときおり生まれており、私たちはそれらを見つけて特性を調べることができる。
しかし、衝突型加速器で得られるものには根本的な限界があり、その限界は加速された粒子の最大エネルギーをどこまで上げられるかによって決まる。とはいえ、理論上はその限界を超える方法がある。検出器を宇宙に送ればいいのだ。それでうまくいくのではないか? それがメル・ネヴィルの呈した疑問だった。
「粒子検出器を宇宙に設置するのは可能だろうか? 確か、大型ハドロン衝突型加速器やフューチャーコライダーよりもはるかに高エネルギーの天然粒子があると聞いた覚えがある。新たな物理現象を発見するために、軌道を周回する装置や探知器に偶然ぶつかる天然粒子を観測することは可能だろうか? ハッブル宇宙望遠鏡型の粒子検出器のように? あるいは月面で?」
それについては、可能というだけでなく、あなたが思っている以上に長い歴史がある。宇宙そのものから素粒子物理学を学べることもあるのだ。
検電器への電荷。近づける帯電体の種類によって中の金属箔の反応が異なる。帯電した検電器を完全な真空空間に置くと、金属箔は永遠に帯電状態を維持するわけではないが、長い時間をかけてゆっくりと放電する。その原因は宇宙線にある。Figure 16-8 from Boomeria’s honors physics page
最初の手がかりは検電器を用いた初期の簡単な実験から得られた。検電器は単純な装置で、表面が絶縁された真空の容器で、中に2枚の金属箔を付けた伝導体があり、伝導体は容器の外まで伸びている。伝導体が接地するか帯電していない場合、2枚の金属箔は重力の働きでまっすぐ垂れさがっている。
しかし伝導体に電気を流すと、金属箔も電気を帯び、互いに反発しあう。そのまま放っておくと、伝導体は荷電状態を保ち、金属箔も静電気を持ち続けると考えられる。つまり、金属箔も帯電状態を維持し、2枚は反発したままであるはずだ。
ところが、この実験の結果は意外なものだった。帯電した2枚の金属箔は離れていたのに、時間がたつにつれてゆっくりと放電したのだ。検電器を完全な真空空間に置いても、金属箔は放電する。何かが電気を浪費させているのだが、それは周囲の空気中にあるものではない。
宇宙線天文学は、ヴィクトール・ヘスが気球で大気圏の上層まであがり、宇宙線の粒子を測定した1911年から12年にかけて誕生した。この功績によって、ヘスは1936年にノーベル物理学賞を受賞した。American Physical Society