テクノロジー

2023.05.14 15:00

天文物理学者イーサン・シーゲルに訊く。ブラックホールから「宇宙線」が生まれる仕組み

X線、光学データおよび赤外線データをもとに、かに星雲の中心にあるパルサーや、パルサーから周囲の物質に送り出される風や流出物が明らかにされた。パルサーは宇宙線の放射体であると判明しているが、検出器を主に宇宙に置けないのには理由がある。X-ray:NASA / CXC / SAO:Optical:NASA / STSCI:Infrared:NASA-JPL-CALTECH

これまでも、主に地上の広範囲に配置した検出器を用いて、到達する宇宙線のエネルギーを測定することができている。宇宙線の大半は、粒子加速器で得られたものと比べて実際の値は低かった。ほとんどの宇宙線は1ギガ電子ボルト(GeV)だったのに対し、大型ハドロン衝突型加速器では粒子ひとつにつき最大7000ギガ電子ボルト──宇宙線ならば100万にひとつあるかないかの基準値のエネルギーを得られた。
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しかし、最もエネルギーを持つ粒子の流束は弱いままでも、宇宙線のエネルギーは地球に存在するいかなる加速器よりはるかに高い値に達しうる。実際、これまで観測したなかで最もエネルギー値の高い宇宙線は、(原子核内の陽子あるいは中性子ひとつにつき)1011【10の11乗】ギガ電子ボルト、粒子加速器で生み出せるものの1000万倍以上あった。当然ながら、超高エネルギー粒子─超高エネルギー宇宙線(UHECR)─はきわめて珍しい。一辺10キロの検出器があっても、1年にひとつしか検出できない。それでも最大規模かつ高性能の装置をそなえた観測所では、超高エネルギーを超えはしないが、それに近い値の宇宙線が実際に存在することを確認している。

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地球の大気圏に衝突する宇宙線のイラスト。衝突した箇所で粒子のシャワーが発生する。ピエール・オージェのような観測所であれば、地上に大型の検出器を配置することによって、到来する宇宙線本来のエネルギーと電荷を再生できる場合がある。

これだけの実績があり、さらには気球が航空機に、航空機がロケットに取って代わり、ついには人間が地球の重力から逃れて軌道に達し、さらに軌道を越えたいまとなれば、素粒子物理学の宇宙研究には成功の長い歴史があると思っても不思議ではない。つまるところ、最上の宇宙線測定結果のいくつかは、電子や陽電子の測定結果と同様、宇宙環境で得られたものなのだから。
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だが、これらの宇宙線粒子を追い求めることには大きな不都合もある。たとえ宇宙線粒子が地上で得られるあらゆるものをはるかに超える膨大なエネルギーを有しているとしても、宇宙線粒子は静止状態に近い粒子に衝突する。素粒子物理学で“固定ターゲット”実験と呼ぶものである。

宇宙線シャワーがもたらすにせよ、地上の粒子加速器によって生じるにせよ、アインシュタインのE=mc2によって新たな粒子が生成されるときは、利用できるエネルギーは重心系(実際は運動量中心系)と呼ばれるエネルギーだけである。宇宙では粒子がかなりの高速で飛びまわり、静止している粒子に衝突するのに対して、加速器内の粒子は反対方向に循環させることができる。つまり、新たな粒子を生成させる際に、時計回りの陽子に反時計回りの陽子を衝突させれば、そのエネルギーを100パーセント活用できるということだ。

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ATLAS検出器内で発生したヒッグス粒子。はっきりとした痕跡や横断する飛跡と同様に、他の粒子のシャワーが発生している。これは陽子が複合粒子であるという事実に起因する。ヒッグス粒子によって、これらの粒子を構成する基本的な要素に質量が生まれるときのみ起こる事象である。高エネルギーが生じれば、現在知られている中で最も基本的な粒子は自然に分裂するのかもしれない。The ATLAS Collaboration / CERN
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翻訳=高橋知子/S.K.Y.パブリッシング 編集=石井節子

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