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2023.05.14 15:00

天文物理学者イーサン・シーゲルに訊く。ブラックホールから「宇宙線」が生まれる仕組み

物理学者には、何が起きているのかすぐにわかった。それらの宇宙線の大半が陽子だとしても、たまたま存在する目標を提供しているのは大気圏の最上層だ。そこでは、宇宙粒子は真空空間ではなく、他の粒子と衝突する可能性のある環境を飛ぶことになる。数メガ電子ボルト(MeV)から、当時は測定不可能だった高い数値のエネルギーで起きる大気圏での衝突が、粒子のシャワーを降らせているのだ。

この発見は宇宙線だけでなく、宇宙の特性そのものを研究するにあたって、さまざまな観点から活用された。地上で粒子検出器をつくり、宇宙線のシャワーで生成される物質を検出し、大気圏の最上層で起きていることを再現できた。チェレンコフ光や、(大気圏のような)環境で光より早く移動する相対論的粒子が放つ紫外線の電磁放射線を探すことによって、宇宙線が最初に持っていたエネルギーを再構成できる。さらに、もし検出器を宇宙に設置できれば、高速の粒子が大気圏に影響をおよぼしてシャワーを降らせる前の、宇宙空間を飛んでいるあいだに捉えることができるかもしれない。

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さまざまな原子核の間に発見された宇宙線スペクトル。存在する宇宙線の99パーセントが原子核である。原子核のおよそ90パーセントが水素で、9パーセントがヘリウム、1パーセントがその他の要素だ。原子核の中でもきわめて珍しい鉄が最も高エネルギーの宇宙線をつくっている可能性がある。J.J.Beatty, J.Matthew, and S.P.Wakely, for the review of Particle Physics CH.29(2019)

これら3つはどれも、宇宙線の魅力的な姿を明らかにするために数十年前から活用されてきた。太陽から太陽風の形で吹き出す宇宙粒子も存在するが、宇宙線のほとんどは宇宙全体から、それも99.9パーセント、全方向から均等に飛んでくることがわかっている。その大半が陽子で、残りの大半がヘリウム4の原子核だが、宇宙線を構成する原子核─炭素や酸素、さまざまな種類の(ほとんどが)偶数の原子核─の幅広いスペクトラムがあることがわかっている。さらには鉄も、きわめて稀少だが高エネルギーの宇宙線をつくっている。

宇宙に行ってじかに測定をしたことで、一部の宇宙線を構成している特異な種の粒子が存在することも明らかになった。すべての宇宙線のおよそ99パーセントが陽子かその他の原子核であるが、およそ1パーセントは電子だ。非常に少ないが無視できないのが電子の反粒子である陽電子で、さらには陽子の反粒子である反陽子も観察されている。ニュートリノは大量にあるが、検出するのが非常に難しい。それでもアイスキューブのような検出器がニュートリノの存在を捉え、測定に成功している。

反ヘリウムのような比較的重い反原子核や、ミュー粒子のような不安定な宇宙線の探索は、これまでのところ成果を挙げていない。私たちに観察できる、宇宙から地表に達する宇宙線は、もっぱら空気シャワーによって発生したものにちがいない。

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共同研究によって検出された最高エネルギー宇宙線のエネルギー・スペクトル。信じられないことにどの実験でも結果は一致し、5×10^19電子ボルトのGZK限界で大幅に減少している。しかし、これらの宇宙線の源はまだ部分的にしか解明されていない。J.J. Beatty, J. Matthew, and S.P. Wakery, for the Review of Particle Physics CH. 29(2019)
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翻訳=高橋知子/S.K.Y.パブリッシング 編集=石井節子

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