今回、改良点よりも強調されたのが、ロールス・ロイスならではの「ビスポーク」だ。色やパーツのカスタマイズはもちろん、インテリアに使う素材などは、すでにあるチョイスの中から選ぶのではなく、例えば織物や絵柄など、ないものをつくるところから始まるのだから想像を超えている。
特徴的なのが、ギャラリーと呼ばれるダッシュボートのガラス空間だ。そこには、ウッド、ガラス、ダイヤモンド、ゴールド、羽など、顧客が望むありとあらゆる素材を使い、唯一無二のアートを表現できる。こうして「世界で最高なだけでなく、顧客にとって最高」のクルマが実現できるというわけだ。
南アフリカの国宝的アーティストEsther Mahlangu氏が手掛けたギャラリー
数年前、スタートトゥデイの前澤友作氏がオーダーした、エルメス仕様のファントム「Oribe」が話題になったが、ロールス・ロイスが直接ブランドとコラボレーションすることはない。すべては「顧客のリクエストであればあり得る」のだと言う。
すべて英国グッドウッドで“手作り”されているロールス・ロイスは、生産台数が限られており、そもそも納車までに2年はかかる。それが特殊なビスポークとなると、デザイナーが「オーダーのバックグラウンドを知るために」顧客を尋ねる、あるいは顧客がグッドウッドを訪れるなどでミーティングを重ね、4年を要することもあるという。
最もラグジュアリーな“プロダクト”
ファントム・ランデブーでは、ディナーやランチの場でデザイナーやエンジニア、広報などと話す機会があったが、その全員の語る内容が似ているのが印象的だった。ミュラー氏もインタビューで「みんな同じことを言うと思うけれど」と言っていたが、ブランドを誇りに思い、常に最高を求め、できる限りオーナーを理解しようとする姿勢が浸透しているからなのだろう。
期間中、メイボーン・リヴィエラ・ホテルの中庭には2台のファントムが展示されていた
鮮明に覚えているのが、「ファントムは、世界で最もラグジュアリーなプロダクト」という言葉だ。クルマというカテゴリーに縛られない、プロダクトにおける最高峰。オーナーの中には、それをディスプレイするギャラリーを持つ人もいると聞けば、まさにアートピースだ。ロールス・ロイスというアーティストに作品を依頼する感覚とも言えるだろうか。
その際には、今回体験したようなアートや自然、専門家との対話がインスピレーションとなるだろうし、ビスポークのプロセス自体もまた、ひとつの体験として顧客自身を豊かにするものになるのだろう。
そして、こうした顧客とのコミュニケーションにより、ロールス・ロイスの創造や技術も極められていく。この関係こそが、ファントムを“最高峰”たらしめる理由なのかもしれない。