いま、長野県の「森」が注目される理由。秘密は「編集力」

森の価値を再発見・再編集する実践型スクール「INA VALLEY FOREST COLLEGE」。森林にかける想いから、参加者間では深い議論が繰り広げられた


カリキュラム内では、現地の森林資源に直接触れながら学んだ。例えば、伊那谷はアカマツカラマツが多いが、その曲がりやすさや歩留りの悪さから海外の木が優先的に使用されてきた歴史があるという。

「マーケットインをしていくと世界中で一番使いやすい素材が残っていきます。それに対して僕らは風土をどうやって作れるのかを考えていますし、それが今まさに価値だと考えています。地域にある資源にきちんと向き合って、ここにあるんだからちゃんと使いたいよねっていう、すごく当たり前だけれど合理的な判断を積み重ねていくことが大事なんじゃないかと思っています」


合宿での体験や議論を通して、深い繋がりが生まれる

心の躍動を大切に


同スクールでは「森に関わる100の仕事をつくる」を掲げるが、それも夢ではないと思える。移住者や転職者、自らのビジネスを志す人などが生まれ、さらにさまざまなコラボレーションも起こっているからだ。

ただ、奥田氏は「100の仕事を今すぐ作ろうというのではなく、参加者の皆さんの人生のどこかのタイミングでそういうことが起こればいいというくらいに思っています」と焦らない。

「森はスケールが長いので、無理にアイデアを出そうとしてもいいものは生まれません。なので、このスクールでは無理矢理アイデアを出し合おうとはしていません。アイデアを急ぐよりは心のうずうずやワクワクを皆で共有し続けて、実行できる人が出てくるのを待ちたいですね」

奥田氏は、こうした受け皿としての余裕を持ちつつ、スクールを通して「森林資源を使った商品づくりやサービスづくりと言えば伊那谷」、といわれるような未来を作っていきたいという。

「地域の中で、木材生産業から精油や葉っぱ、経木を作るなどして、産業生態系を作ることで森全体の価値を高めていきたい。そのためにも、INA VALLEY FOREST COLLEGEが、これまで森に関心がなかった人たちや、好きだけど一歩踏み出せなかった人たちが、集まってきてくれる入口になってほしいと思います」

すでにその入口には多くの人が集まってきている。このスクールがさらに拡張し、大きなムーブメントになる日はきっとそう遠くない。尽きない森林の可能性に今から目を向けておきたい。

奥田悠史(おくだ・ゆうじ)◎やまとわ/森林ディレクター
森の面白さや豊かさを再発見・再編集してそれをプロダクトやサービスにしていろんな方に届けるのが仕事。信州大学農学部森林科学科卒。大学時代にバックパッカーで世界一周へ。帰国後、編集者・ライターを経て、2015年にデザイン事務所を立ち上げる。2016年、「森をつくる暮らしをつくる」をミッションに掲げる株式会社やまとわの立ち上げに参画。森林とクリエイティブを掛け合わせて森の課題解決を楽しく実践中。

文=佐藤祥子

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