ダルバートやネパール料理の人気を牽引する存在の一つが、2020年にオープンした豪徳寺のネパールレストラン、オールド ネパール。オーナーは日本人シェフの本田遼氏だ。ネパール料理好きが高じて2015年に大阪でネパール料理 ダルバート食堂を開店し、その後、東京に進出した。
2020年6月に発行された本田遼氏による「ダルバートとネパール料理: ネパールカレーのテクニックとレシピ、食文化」(柴田書店)。語られることが少なかったダルバートについて深く知れる貴重な存在。
「本田氏が2年前に、“ダルバートとネパール料理”というレシピ本を出版されたんです。それまで日本語のダルバートのレシピ本はなかったんですが、そのお陰で誰でも家で作れるようになり、裾野がグッと広がりました。僕もその本を読んで作り始めましたし。日本のダルバートカルチャーの分水嶺となった重要な一冊だと考えています」
ダルバートの食べ方はこうだ。まずはそれぞれのおかずを味わい、その後、ご飯にダルやカレーをかけて食べる。後半はそれぞれを好きに混ぜ合わせながら、自分で味を作っていく。このように各人が自由に味わいを作り出し、無限にその楽しさが広がっていく様は、日本のカレーカルチャーそのものとも重なる。
CHYANGRAでは、メニューと一緒にダルバートの食べ方が提供されている。
「カレーは定義が曖昧で、本当に幅広い食材や調理法がカレーとして成立します。さまざまな要素がスパイスによって混ざり合い、包摂されているんですよね。そんなカレーの特性がら、カレー好きの人たちもいろいろな層にまたがっている。まさにダイバーシティー&インクルージョンの権化です」
Web3の台頭により、今後ますます分散型社会となり、クラスターが細分化されていく。個々が居心地の良いコミュニティに属していく一方で、情報やコミュニケーションが蛸壺化し、偶然の出会いや閃きの欠如が懸念される。そんな中、カレーカルチャーは、気軽に多様な人々や社会と繋がることができるツールとして機能するのではないかと田嶋氏は考えている。
「僕自身もカレーのお陰で、それこそ10代・20代の若者とか、60代・70代の大先輩といった本来は交わる機会の少ない人たちと食事をしたり、ネパールやインドの人たちとコミュニケーションをとれたり、アジア各国の社会情勢に興味を持ったりなど、日々世界が広がっています。カレーはその多様性、懐の深さゆえに、人々と繋がったりコミュニティ間を行き来するのを、後押しする役割を担うのではないかと。
なんて大きなことを言いましたが、まずはダルバートをぜひ味わってみてください。単純にスパイスによってテンションが上がりますし、日常の中の非日常感を楽しめたり、その優しい味に癒されたりと、何気ない毎日の絶妙なスパイスとなってくれることうけあいです」
田嶋章博◎1976年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社にてファッション誌の編集に携わった後、ライターとして独立。東洋経済オンラインやNewsPickなどのビジネス系記事と並行し、dancyuなどでカレー記事を手がける“ビジネスとカレーのライター”として活躍している。都内のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。