いちおう、電車などの車内ではマスク着用が「mandatory(法的強制)」と放送され、違反した場合は反則金もあるそうだが、もはや駅員にも注意するような素振りもなく、ドイツであってもやはり、押し寄せる旅行者の波にマスク着用のルールは緩み始めているのかもしれない。
ドイツ・ベルリンの空港、ノーマスクの人のほうが多かった
さらに、4月に訪れたアムステルダムとロンドンでは、早々にマスク着用の義務は撤廃されていた。特に、ロンドンではどこへ行っても人の多さに圧倒され、どんな混雑のなかでもマスクをしている人のほうが珍しいほど。ロンドン在住の友人によれば、マスク着用の義務があったときですら、ノーマスクの人を結構見かけたと言う。
そんな話を聞くと、ロンドンとパリ、国で言えばイギリスとフランスで比べたとき、自由主義が強そうなフランスのほうが割と真面目に義務を守っていたようだったのは興味深い。
一方では、両国は同じくらいの人口でありながら、これまでの感染者の総数で言えばフランスのほうがイギリスより700万人近くも多い。理由として考えられるのはマスク着用だけでなく、島と大陸、フランス人の仲間内での距離の近さ、「ビズ」と呼ばれるキスに似た挨拶、もしかしたら言語における発音の違いによる飛沫量の差など、文化の違いも複雑に絡んでいるのかもしれない。
4月のイギリス・ロンドン、衛兵行進を撮影するための人だかり。みなマスク着用していない
マスク着用の「義務」がなかった日本
さて、フランスがマスクの着用を完全撤廃した5月16日、RFI(ラジオフランス)は日本でのマスク着用について「日本でもコロナ禍が始まって以来、初めて屋外でのマスク着用の『義務』がなくなった」と報じていた。
確かに、日本ではこの時期、屋外でのマスク着用についての議論は始まっていたが、これまでマスク着用が法的な「義務」になったことは一度もない。やはり、海外メディアからすれば、国民が一斉にマスクを着用するのは「義務」なしに成立しないと考えているのだろう。
しかし、日本には義務がなかったからこそ、逆にいまなお多くの人がマスク着用を守り続けているのではないか、そのようにも考えられる。欧州各国のように政府から課せられた義務であれば、解除もあり、オンとオフも明確だが、日本では誰の責任においてマスクを外していいのか迷い続けているように見える。
また、日本人がマスクを外さないのはその他の理由も心当たりがある。最近、日本から遊びに来た筆者の母親が、パリでもマスクを外そうとしないので何故かと聞くと、予防のためだけでなく「なんとなく恥ずかしいから」と外見上の理由を挙げた。その気持ちはよくわかる。パリでマスク着用が解除になったばかりの頃、自分も似たような思いをしたからだ。